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  • 国内都市域における反応性窒素の沈着挙動の評価と感度解析
  • 国内都市域における反応性窒素の沈着挙動の評価と感度解析

    秦 寛夫(環境暴露モデリンググループ)

    • 井上 和也(環境暴露モデリンググループ)
    • 林 彬勒(排出暴露解析グループ)
    • 恒見 清孝(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】

    工場や畜産業、自動車等からは、窒素酸化物(NOx)やアンモニア(NH3)等の反応性窒素化合物(Nrs)が排出されており、人体への有害性や、陸域と水域への沈着による森林破壊(Lin et al., 2021)や富栄養化の要因とされています。大気中のNOxやNH3の排出挙動に関する研究は広く行われています。また、Nrsの沈着挙動についても観測や数値モデルによる先行研究が多数存在します。一方で「大都市近傍のNrsの排出がNrsの沈着量にどの程度寄与しているか」を評価した例はありません。本研究では、大都市域の代表として東京と大阪を含む関東と関西におけるNrsの沈着挙動を領域大気質モデル(後述)により評価し、さらにNrsの沈着に特に寄与する成分を同定しました。

     

    【成果】

    本研究では、大気中の化学物質の移流や拡散、化学反応、沈着現象を予測するシミュレータである領域大気質モデルThe Community Multiscale Air Quality model(CMAQ)を用いて、2017年の関東と関西におけるNrsの沈着挙動を評価しました。その結果、気温と日射量の高い夏季に、硝酸(HNO3)とNH3に由来するNrsの沈着量が多いことがわかりました。さらに、領域大気質モデルの感度解析アルゴリズムによる検討の結果、主に畜産業に由来するNH3を削減することが、都市域周辺のNrs沈着量を減らすのに最も有効であることを示しました。一方でNOxの排出削減は海域等の日本域外のNrsの沈着量削減に寄与することが示唆されました。本研究成果は国際的な学術誌であるAtmospheric Environmentに掲載されました(Hata et al., 2022)。

     

    Hata, H.; Inoue, K.; Lin, B.-L.; Tsunemi, K. Urban-scale analysis of nitrogen deposition in Japan: Validation of chemical transport modeling and the sensitivity of anthropogenic nitrogen emissions to dry and wet depositions. Atmos. Environ. 275 (2022) 119022.

    Lin, B.-L.; Kumon, Y.; Inoue, K.; Tobari, N.; Xue, M.; Tsunemi, K.; Terada, A. (2021) Increased nitrogen deposition contributes to plant biodiversity loss in Japan: Insights from long-term historical monitoring data, Environ. Pollut. 290 (2021) 118033.

    20220330_研究紹介_秦寛夫

    図 関東と関西における冬季(1月から3月の期間平均)と
    夏季(7月から9月の期間平均)の反応性窒素(Nrs)沈着量

     

    【成果の意義・今後の展開】

    本研究の結果から、国内の都市域スケールにおけるNrsの沈着量の削減にはNH3の排出を抑制することが特に重要であることが示唆されました。Nrs沈着を含む世界の窒素収支に関する課題は国連でも取り上げられており、本成果は国内外の行政施策の一助になることが期待されます。この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP18016)の結果得られたものです。

    2022年03月30日