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  • 複雑に混ざり合った環境中の化学物質を選り分ける技術 - NMFデコンボリューションとウェブツールGC Mixture Touch –
  • 複雑に混ざり合った環境中の化学物質を選り分ける技術 - NMFデコンボリューションとウェブツールGC Mixture Touch –

    頭士 泰之(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】

    「星の数ほど」と言われる様に宇宙に広がる惑星の数は多く、100秭(じょ)(= 1026)に及ぶと言われています。一方、化学物質の種数は最新科学により1660億(1.66×1011)種まで数え上げられています1)。これは構成原子数など制約を課したもので、それを除いた総数は1那由他 (=1060) 種を超えるとされています。国内で産業的に用いられ、リスク評価されている物質種数が約3万種なので、未評価物質が星の数以上にあり得る訳です。高リスク物質は発見に工夫が凝らされていますが、それでも環境中では無数の物質が混在しており、リスクが懸念される物質の発見が困難となり得ます。これに対し、装置分析とデータ解析を駆使し選り分けて個々の物質を発見する技術を開発しました。

     

    【成果】

    開発した技術は、GC-MSという化学物質の分離分析に用いられる装置で得られるデータについて、非負制約因子分析法(NMF)と呼ばれる機械学習手法を用いて混ざり合った化学物質由来の装置信号(スペクトル)を分離して、個々の化学物質に特有の純粋なスペクトルを得て物質認識を行うものです。この技術をGC-MSに対するNMFデコンボリューションと呼びます。その性能を評価するため、環境試料として道路塵埃を選びGC-MS分析を行いました。この試料にはあらかじめ情報既知の化学物質(2,6-ジメチルフェノール)を添加しました。通常のGC-MS分析ではスペクトルに基づいてこの物質を発見する事が出来なかった一方、NMFデコンボリューションを行うことにより発見可能である事が確かめられました(図)。その他添加した4物質も全て発見可能である事が確認され、広く活用可能であると期待されます。この技術を学術論文にまとめ、ウェブアプリケーション(GC Mixture Touch)として実装し、公開を行っています。

     

    公表成果:

    Zushi, Y., NMF-Based Spectral Deconvolution with a Web Platform GC Mixture Touch. ACS Omega 2021, 6, (4), 2742-2748.

    GC Mixture Touch: http://www.mixture-platform.net/GC_Mixture_Touch/

    20220330_研究発表_頭士泰之

    図 GC Mixture Touchを用いて混ざり合った化学物質を分離する流れ

     

    【成果の意義・今後の展開】

    この成果は、大学や官公庁などで実施されている環境中の化学物質のモニタリングにおける活用が見込まれ、高リスク物質や未評価物質を発見しようとする取り組みを促進するものです。今後は、これら高リスク物質や未評価物質に関する評価取り組みを支援するため、本技術を応用して多数の物質を効率的に解析する技術の開発、異なる分析装置への対応、物質の認識以外の解析機能の開発に取り組みます。

     

    *本研究はJSPS科研費19H04297の助成を受けたました。ここに謝意を示します。

     

    【参考文献】

    1) Reymond, J.-L., Accounts of Chem. Res. 2015, 48, 722-730.

     

    2022年03月30日