セルロースナノファイバーの細胞影響試験の現状と課題
森山 章弘(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
セルロースナノファイバー(CNF)は、新素材として多様な応用が期待される一方、安全性については未だ不明な点もあります。近年、ナノ材料の安全性評価において、動物試験に依存しない細胞影響試験が検討されています。しかし培地成分との凝集による貧栄養の誘発などナノ材料特有の副次的影響もあり、試験の実施や結果の解釈には注意が必要です。適切な細胞影響試験に必要な測定項目がまとめられた技術仕様書もありますが(ISO/TS 19337, 2016)、CNFへの適用可能性は検討されていません。当部門では、CNFの安全性評価に資する細胞影響試験を実施しており、ここではその一環として、CNFの細胞影響試験の現状と課題を把握するために実施した文献レビューの結果を一部紹介します。
【成果】
文献レビューでは、「cellulose nanofibers」,「cellulose nanofibrils」,「cytotoxicity」を組み合わせ、医学・生物学文献データベースPubMedで過去10年の文献を検索し、目的とする条件を満たす12報を対象としました。ナノ材料の細胞影響試験における重要項目の一つである培地分散液中の特性評価に着目すると、わずか2報での実施例に留まり、不十分であることがわかりました。水中や保存原液中ではなく、試験培地中でのナノ材料の状態(粒径や安定性など)を的確に評価することで凝集状態の把握や、ナノ材料の電荷・サイズが細胞に及ぼす影響の理解につながります。不十分な状況の原因の一つには、適切な特性評価手法が存在していないことも理由と考えました。CNFは多様であり、培地中での状態も種類毎に異なる可能性もあるため、信頼性の高いCNFの細胞試験の実施や結果の解釈のためにも、CNFの特異性を考慮した特性評価とその手法の確立が重要な課題だと考えます。
図 細胞影響試験における培地分散液中のCNFの特性評価
【成果の意義・今後の展開】
CNFの細胞影響試験の文献レビューの結果、培地分散液中の特性評価手法の確立が必要であることを確認しました。他にも生物由来のCNFに特有な課題などを抽出し、対応する測定手法や解決策を議論した総説論文を作成中です。また培地に分散したCNFの特性評価に必要な測定手法も検討しています。これらを踏まえたCNFの安全性評価に資する適切な細胞試験系の確立は、CNFを取り扱う事業者の自主安全管理の支援やCNF含有製品の開発や普及に役立つと考えます。
※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP20009)の結果得られたものです。
2022年03月30日