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  • 安全対策の経済的評価ツールの開発
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    牧野良次(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
    労働災害や産業事故は労働者の命や健康を害するだけでなく企業の生産性にも悪影響を及ぼします。これらを避けるために安全対策を実施しますが、企業内の予算や人員は限られているので、望ましい結果を得るにはそれらの資源をできるだけ効率的に使う必要があります。中央労働災害防止協会は、安全対策費の持続的投入を進めるためには費用投入の効果を評価する必要があると指摘しました。しかし、そのような評価を実施するために企業を支援する仕組みは未だ整備されていません。そこで中央労働災害防止協会からの委託を受け、産総研では企業が自社の安全対策の経済的評価を事前にかつ簡便に実施できるよう支援する方法論・評価ツールの整備およびその普及を行うことを目的とした研究を進めています。

     

    【成果】
    安全対策の経済的評価ツールの開発方針を以下のように整理しました。(1)経済的評価とは個別企業の安全対策を対象とした事前の費用便益分析を指す。(2)製造業を対象とする。(3)負傷を生じる業務災害を対象とする。(4)評価ツールの主たる想定ユーザーを中小企業とする。(5)ユーザーの負担が少ない簡便なツールを目指す。(6)リスクアセスメントとの連携に配慮する。これらの開発方針に基づいて、安全対策の経済的評価ツール試行版を作成しました。安全対策費用、労働災害が発生した場合の損害額などを入力すれば安全対策の費用対効果を計算することができます。企業の安全担当者にヒアリングしたところ、安全対策の効果を金額に換算して「見える化」できる点が有効であるなどの好意的な評価をいただきました。一方で、災害発生頻度や損害額についての参考値を記載すべきなどのご意見もいただきました。
    報告書URL:https://www.jisha.or.jp/research/report/index.html

     

    20220902_研究紹介_牧野良次

    図 安全対策の経済的評価ツール試行版(報告書から一部抜粋)

     

    【成果の意義・今後の展開】
    この研究は、安全対策への投資に関する経営判断や安全担当者の経営貢献の評価の適正化に資するものです。今後は評価ツールの詳細についてさらなる検討と改善を加える予定です。具体的には損害項目の取捨選択、災害発生頻度や損害額に関する参考値の整理、評価事例の蓄積をはじめとして、これまでのヒアリングでご指摘いただいた課題について検討と改善を加え、2023年3月末までに安全対策の経済的評価ツール完成版として公開することを目指しています。

    ※ この成果は、中央労働災害防止協会の委託事業「安全対策の経済的評価に関する調査研究(2020年度、2021年度)」の成果です。

    2022年09月02日