2つの確率過程に支配されるショックモデルの基本的性質を証明
竹下潤一(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
地震による建物倒壊や、バグ混入によるソフトウェア故障を数学的定式化したものをショックモデルと呼びます。ショックモデルの理論的解析では、一般に、イベント(地震やバグ)発生と、発生した場合のユニット(建物やソフトウェア)に与えるダメージ規模とを、それぞれ確率過程(時間に依存する確率)としてモデル化し、ユニットの信頼度として、ある時刻でのシステムの故障確率や、故障時間の分布を求めます。これまでイベント発生間隔やダメージ規模が、各々1つの確率過程に支配される場合が研究されていますが、これは、地震やバグが1種類しかないという仮定を置いていることになります。これは非現実的であるため、複数の確率過程に支配されるショックモデルを考えていく必要があります。
【成果】
すでに提案されているショックモデルのうち、a)最初のイベントが発生した時点でシステムが故障する「壊滅的ショックモデル」とb)イベントによる累積ダメージが一定値を超えた時点でシステムが故障する「累積ショックモデル」(図)を扱いました。それぞれについて、2つの確率過程に支配される場合のショックモデルを数学的に定式化し、ある時刻でのシステムの故障確率、故障時間の分布とその平均値などの基本的性質を表現する理論式を導出しました。さらに、a)についてはイベントの発生間隔が、最も単純な指数分布の拡張である整数ガンマ分布に従う場合と、故障を扱う場合によく使われるワイブル分布に従う場合について、それぞれ基本的性質の解析解を得ました。また、b)についてはイベントの発生間隔が指数分布に従う仮定の下で、ダメージ規模が指数分布と整数ガンマ分布に従う場合について、それぞれ基本的性質の解析解を得ました。
※ H. Mohri and J. Takeshita*, Catastrophic failure and cumulative damage models involving two types of extended exponential distributions, International Journal of Reliability, Quality and Safety Engineering (to appear)
※ H. Mohri and J. Takeshita*, Analysis of damage induced by two types of shocks in Proceedings of the 24th ISSAT International Conference on Reliability & Quality in Design, ed. H. Pham (Toronto) (ISSAT 2018) pp. 147–150
図 2つの確率過程に支配される累積ショックモデルのイメージ
【成果の意義・今後の展開】
2つの確率過程に支配されるショックモデルの理論的研究は、これまで数学的困難さから皆無でした。そのため、今回の執筆者らの成果により、ショックモデルをより現実的な方向へ改良する研究がスタートできたといえます。今後は、世の中の実例への応用を視野にいれ、イベントの発生間隔やダメージ規模の確率過程を2つ以上に拡張するとともに、より柔軟な記述が可能となるより一般の確率分布に従う確率過程に支配されるショックモデルの解析をすすめていきます。
2022年09月02日