金属生産に伴う将来の温室効果ガス排出量と気候変動目標との関係
横井崚佑(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
金属資源は私達の生活や産業活動、さらには脱炭素技術の拡大においても必要不可欠な資源です。しかしその一方で、金属生産に伴う温室効果ガス (GHG) 排出量は全体の排出量の約10%を占めると言われています。GHG排出量の削減目標が掲げられ、気候変動問題の解決に向けて様々な対策が取られている中、金属生産に伴うGHG排出も重要な要素の一つと言えます。さらに人口増加や経済発展、脱炭素技術の拡大によって今後さらに世界の金属需要は高まると考えられており、将来の金属生産に伴うGHG排出が気候変動目標の達成の障壁となる可能性や、逆に環境制約から将来の金属供給が制限を受ける可能性が指摘されています。そのため、将来の金属生産に伴うGHG排出量の推計やその抑制に向けて効果的な対策についての議論が必要です。
【成果】
そこで本研究では、生産量の多い主要な6金属 (Al, Cu, Fe, Pb, Ni, Zn) を対象に、2100年までの将来の世界における金属採掘量とリサイクル量の推計、さらにそれらの金属生産に伴うGHG排出量の推計および分析を行いました。
複数の社会経済シナリオ (SSPシナリオ) を対象に分析を行った結果、どの将来シナリオにおいても、追加的な対策を取らない場合では金属セクターにおいて気候変動目標 (2℃目標) の達成は困難であることが明らかになりました (図)。世界の金属生産に伴うGHG排出量の増加は、主に21世紀前半の新興国における金属需要の増加に起因しており、気候変動目標の達成に向けて国際的な協力の下で早急な対策を取ることの重要性が示されました。またGHG排出量抑制に向けた対策としては、短期的には鉄鋼生産を始めとする金属生産におけるGHG排出強度の改善や一人当たりの金属使用量の水準の抑制が、長期的にはリサイクル率の改善が効果的であることが示唆されました。
本成果は下記論文で公開されています。
Yokoi et al. (2022) Energy Environ. Sci. 15, 146-157.
https://doi.org/10.1039/D1EE02165F
図 将来の金属生産に伴う世界のGHG排出量と気候変動目標の関係
【成果の意義・今後の展開】
本成果は、中長期的な環境制約という観点からの金属供給のリスク要因の分析を通じて、金属生産に関する気候変動目標の達成に向けた効果的な対策を検討した研究となります。なお、金属生産に関わる環境問題は気候変動だけではなく、水利用や土地利用など多岐にわたります。今後は対象とする金属資源種や環境問題の拡張を行い、気候変動対策を含めた持続可能な発展と調和した金属利用の実現に向けて研究を進めていきます。
※ 本研究の一部は、JSPS科研費20K20014の助成を受けたものです。
2022年09月02日