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  • サブミクロン径炭素繊維の肺毒性、細胞毒性、遺伝毒性評価
  • サブミクロン径炭素繊維の肺毒性、細胞毒性、遺伝毒性評価

    藤田克英(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
    ブレンド紡糸法により作製されたサブミクロン径炭素繊維(SCFs: Submicron-diameter carbon fibers)は、直線性が高く単結晶的な構造を有することから、導電性や熱伝導性を活かした用途の開発が進んでいます。その一方で、アスベストやカーボンナノチューブのように繊維状で微細な物理化学的特性を持つため、ヒト健康影響が懸念されています。このため、繊維の長さや太さの異なる3種類のSCFsを対象に、180日間のラット気管内投与試験による肺毒性評価や、ラット肺胞マクロファージを使った細胞毒性評価、さらにOECDテストガイドラインから3種類の遺伝毒性試験(Ames試験、インビトロ染色体異常試験、インビボ小核試験)を選択し、これをバッテリー試験として遺伝毒性評価を実施しました。

     

    【成果】

    180日間のラット気管内投与試験の結果、肺における炎症反応は、SCFsの長さや太さの物理化学的特性の違いにより異なりました。短尺で太いSCFsによる炎症の程度は、細いSCFsに比べて小さく、炎症反応の回復も早いことが分かりました。また同濃度の多層カーボンナノチューブと比較した結果、3種類のSCFsによる炎症反応の回復は早く、投与後180日目の肺試料中のSCFsの残留も少ないことが明らかになりました。細胞毒性は、炎症反応と同様にSCFsの長さや太さの違いにより異なり、ラット肺胞マクロファージの呼吸活性の阻害は、短尺で太いSCFsの暴露の場合で最も低いことが分かりました。さらに、SCFsは3種類の遺伝毒性バッテリー試験ですべて陰性の結果となったことから、遺伝毒性は示さないと結論しました。本研究成果は、国際学術誌であるToxicologyに掲載されました(Fujita et al., 2022)。

     

    Fujita K, Obara S, Maru J. Pulmonary toxicity, cytotoxicity, and genotoxicity of submicron-diameter carbon fibers with different diameters and lengths. Toxicology. (2022) 466:153063. doi: 10.1016/j.tox.2021.153063.

     

     

    研究紹介_藤田

    図 SCFsの肺毒性、細胞毒性、遺伝毒性の評価

     

    【成果の意義・今後の展開】
    本研究では、多様な物理化学的特性を持つ3種類のSCFsを被験材料として使用していることから、他のSCFsに対する肺毒性や細胞毒性、遺伝毒性の評価方法にも有用と考えます。SCFsの開発や普及、さらにはこれらを取り扱う事業者の自主安全管理の支援にお役立ていただけましたら幸いです。なお、本研究結果はSCFsの安全性について保証するものではありません。本研究は、帝人株式会社との共同研究によるものです。

    2022年09月27日