固体爆薬の定常爆轟シミュレーション
久保田士郎 (爆発利用・産業保安研究グループ)
【背景・経緯】
爆轟は反応物質の音速を超えて定常で伝わる激しい燃焼波です。例えばTNT爆薬では、爆轟速度7km/s程度、爆轟圧20万気圧が達成されます。図1(a)に爆轟の軌跡を圧力と比体積で表した概念図を示します。爆轟波が到達すると初期状態(v0,P0)からノイマンスパイクと呼ばれる状態(vn,Pn)へ跳びます。その後、反応開始してレイリー線(図中点線)に沿って膨張しC-J点(vj,Pj)で反応が終了します。上述の爆轟圧はC-J点を指します。ごく短時間で終了するため通常無視されます。しかし、非理想爆轟(爆轟状態が直径や拘束条件に依存する)などの数値解析には、これを表現するアルゴリズムが求められます。そこで、まず定常爆轟シミュレーションで反応帯の状態量について検討しました。
【成果】
高性能爆薬 PETN(初期密度1.778 g/cc)中を伝播する定常爆轟シミュレーションを実施し、初期状態からC-J点までの軌跡を満足する条件と、その際の状態量の分布等を確認しました。爆轟を起こすためにアクリル板を高速衝突させる問題を、保存則と各物質の状態方程式ならびに起爆モデルを組み合わせて解きます。図1(b)中にシミュレーション結果を小さな赤円でプロットしています。軌跡は初期状態からノイマンスパイクの非常に近くまで、レイリー線に沿って未反応のまま圧縮されます。数値解析ではスパイク点に到達する直前に反応が開始するために、厳密にはスパイク点は一致しないこと、同時にそれが無視できるほど小さいことが分かりました。その後、反応と圧力減衰を伴いレイリー線に沿って状態変化し、C-Jで完全反応して爆轟生成ガスの状態方程式に従い膨張する過程がシミュレート出来ました。
図1 爆轟波の圧力(Pressure)-比体積(Specific volume)面上の軌跡
【成果の意義・今後の展開】
反応帯を含む定常爆轟シミュレーションのアルゴリズムは、安全上その評価が重要な非理想爆轟などの非定常現象のシミュレーションと基本的には同様です。しかし、後者の方がシミュレーション予測の難易度は高く、少なくとも定常爆轟が再現できることが確認されている必要があります。計算条件を変化させて、反応帯の状態量について検討した結果、典型的な爆轟の軌跡を再現できており、基本的なアルゴリズムを構築することができました。今後は非理想爆轟への研究展開を検討しています。
久保田士郎,佐分利禎,高橋良尭,永山邦仁,定常爆轟における反応帯の状態量に関する数値解析的検討, 2021年度衝撃波シンポジウム
2022年11月28日