爆風に晒される人体の防護についての研究
丹波高裕(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
爆薬等の高エネルギー物質は発破等で利用される反面、その威力を爆破テロに悪用された事例が国内外にあります。近年の爆破テロでは、意図的に時間差を設けた2発目以降の爆発物で人命救助にあたる要員を狙い、混乱を助長し被害を拡大させる戦術が見られます。万一の場合に確実に救助作業を行うためには、救助要員の安全を確保する危険予測および防護手法が必要です。そこで、爆発威力の測定や残留物の分析、飛散物の素材貫通試験や人体模型上での爆風圧計測を行いました。本稿では特に、実際に使用されている消防資機材を人体模型に装着し、爆風圧の観点からその防護性能を評価した実験について紹介します。
【成果】
図の左側は実験時の写真です。人体模型の頭頂、左耳、顔面、胸部の4か所に圧力センサを取り付け、その上に防火衣、防火帽(フェイスシールドあり)、手袋、長靴を着用しました。人体模型から距離1 m、高さ1 mに爆薬10 gを吊るし、爆発で発生した爆風の圧力を圧力センサで記録しました。
図の右側は計測した圧力履歴の例です。空中で計測した爆風圧(黒線)では、爆風先頭の衝撃波のため圧力が不連続に上昇し、伝播過程にある物体は大きな衝撃を受けます。消防資機材を着用して爆薬に正対した場合には、衝撃波による圧力上昇が緩やかになり、衝撃の緩和が見られました。損傷すると致命的な肺(左胸)上では特に顕著であり、爆風先頭の衝撃波は無数の圧縮波に分解され、最大圧力も1/4以下となりました。頭頂、左耳の爆風圧についても、同様の傾向を確認しました。また、背後を向く、腹ばいになる等、姿勢を変化させることで更に爆風の影響を低減できることも明らかにしました。これらの成果は火薬学会で口頭発表されました。
図 消防資機材を装着した人体模型と計測した爆風圧の時間履歴(爆薬に正対した場合)
【成果の意義・今後の展開】
現有の消防資機材を着用することで人体が爆風から受ける影響を緩和できること、適切な防護姿勢をとることで爆風の低減効果を大きくできることが明らかになりました。東京2020オリンピック・パラリンピックに代表されるように、日本でもテロ対策が重要視される中で、緊急時の指針となる成果を関係機関に提供することができました。今後は、現有資機材の活用だけでなく、新たな爆風低減手法の開発にも取り組み、爆発災害時の安全な救助活動に貢献していきます。
2022年11月28日