地域の省エネ・温暖化対策評価と地域の排出量把握
歌川 学(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
気候変動の悪影響抑制のため脱炭素転換が求められています。IPCC第6次報告書WG3報告は気温上昇1.5度抑制(工業化前比)の世界のCO2削減として、2030年2019年比48%削減、2050年頃排出ゼロを示しました。IEAは排出ゼロは技術的に可能とし、対策のマイルストーンを示しました。一方化石燃料価格が高騰、IEAもエネルギー危機は脱炭素のスピードが遅すぎたことにより生じていると指摘しています。
国・地域で、今後目標強化も含めたシナリオ検討を行い、目標達成のための対策を合理的に選択し実行することが必要です。そのため全体を見て排出削減効果が大きいもの、費用対効果が高いものなどを定量的評価に基づき計画的に取り組む必要があります。
【成果】
地域のCO2排出実態把握が必要です。都道府県単位では国の統計もありますが、市町村は国の統計がなく、環境省が国や県からの按分推計試算を発表しています
本研究では製造業の業種区分細分化により、従来よりも緻密に排出量を試算しました。この排出実態推計を用い、自治体でも技術導入対策を想定し、既存技術の計画的な普及により素材製造業や船舶航空燃料消費などがないか、あっても割合がごく小さい自治体では、2050年に100%近い削減の技術的可能性が明らかになりました。
近江貴治・歌川学「地域CO2排出量算定法の開発」日本環境学会報告
歌川学・外岡豊「2050年にむけた藤沢市の脱炭素シナリオの研究」エネルギー資源学会報告、
歌川学・外岡豊・松原弘直・安竹哲雄・寺尾信子「東京都世田谷区・中野区・杉並区・練馬区の地域CO2排出量推定と脱炭素対策」エネルギー資源学会報告、
歌川学・外岡豊「愛知県長久手市のCO2排出量実態推定と2050年脱炭素転換」エネルギー資源学会報告
【成果の意義・今後の展開】
今回の成果は自治体排出量実態把握と対策の有効な手法です。多くの自治体は既存技術の計画的な普及により2050年に排出の大半を削減する技術的可能性があります。対策の大半は投資回収可能と推定されます。化石燃料価格高騰により対策で光熱費負担を大きく減らし、光熱費と設備費の合計も減らす可能性が高くなりました。その実現には専門的知見の活用が必要です。今後は多様な地域の脱炭素転換にむけた対策技術導入評価分析を予定しています。
※ 本研究は、科学研究費補助金基盤研究A「システム改革下における地域分散型のエネルギーシステムへの移行戦略に関する研究」、科学研究費補助金基盤研究C「太陽光・風力発電の大量連系と電力需給バランスを考慮したCO2削減効果の推計」により実施しました。
2022年12月09日