• ホーム
  • 研究紹介
  • 東日本大震災の被災地(福島県相馬地方)における代表的な死因による損失余命の推定と震災前後での比較
  • 東日本大震災の被災地(福島県相馬地方)における代表的な死因による損失余命の推定と震災前後での比較

    小野恭子(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】
     これまで、東日本大震災の被災地では、震災前後における健康影響の変化は市町村レベルでは明らかになっていませんでした。本研究は、福島県相馬地方を対象に、年齢別・男女別の死因データから代表的な死因の「損失余命」を震災前後でそれぞれ算出することで健康影響の変化を解析したものです。
    損失余命とは「疾病や事故、その他意図しない要因にさらされた結果失う余命」のことです。損失余命が減少することは、平均寿命が延びていることを指し、若くして亡くなりやすい死因の場合、損失余命は、より大きくなります。被災地における損失余命の変化は、災害による健康への負の影響だけでなく、災害前後の医療の変化などを反映する可能性のある指標として有効です。

     

    【成果】
     相馬地方(相馬市と南相馬市)の年齢別人口動態統計(2006年1月-2015年12月)および住民基本台帳データを用いて、代表的な死因である心疾患、脳血管疾患、肺炎、がんの損失余命を推定しました。結果、相馬地方では、震災前後でがんの損失余命の有意な増加は見られませんでした。また、震災の前(2006-2010年)と後(2011-2015年)で、心疾患(女性)、脳血管疾患(男女)、肺炎(男性)で、0歳時損失余命の減少が認められ、特に、女性の心疾患については全国平均よりも大きな減少幅となりました(図)。この結果から、医療技術の向上や医療政策により、健康管理や疾患管理の状態が震災前より改善している可能性が示唆されました。一方で、心疾患(男性)や脳血管疾患(男女)による損失余命は震災後も全国平均より高いこともわかりました。本研究では、がんの種類別(対象:胃がん、大腸がん、肺がん、白血病、乳がん(女性のみ)、子宮がん(女性のみ))の損失余命も推定しています。

     

    書誌情報:Kyoko Ono, Michio Murakami, Masaharu Tsubokura (2022). Was there an improvement in the years of life lost (YLLs) for non-communicable diseases in the Soma and Minamisoma cities of Fukushima after the 2011 disaster? A longitudinal study. BMJ Open 12(4) e054716. doi: 10.1136/bmjopen-2021-054716.

    研究紹介_小野

    図 相馬地方および日本全国における、心疾患、脳血管疾患、肺炎、がんに関する0歳時の損失余命の震災前後の比較

    (震災前:2006-2010年、震災後:2011-2015年。バーは推定値の95%が取りうる範囲を示す)

     

    【成果の意義・今後の展開】
     この成果は、地域の健康対策や重点化するべき方策の優先順位づけのための基礎資料として活用が見込まれるほか、災害前に国や地方自治体によって作成された医療対策の成果を評価する際にも活用が期待されます。今後、震災前後で生活状況が大きく繰り返し変化している福島県の浜通り地方や福島県全域に対象を広げ、損失余命の推定を実施していきます。各地域、および全国と比較することで震災が余命に与える影響を定量化し、効果的な医療対策の提案につなげて行く予定です。

     

    ※ 本研究は、村上道夫博士(福島県立医科大学、現所属:大阪大学)および坪倉正治博士(福島県立医科大学)との共同研究の成果です。また、環境省の放射線の健康影響に係る研究調査事業および日本学術振興会の科研費(20H04354)の支援を受けて実施いたしました。

    2023年01月24日