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  • 高温化学反応研究のための新規反応装置の開発
  • 高温化学反応研究のための新規反応装置の開発

    松木 亮(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
     燃焼のような高温環境下で進行する気相化学反応の研究を行っています。特に1000℃を超える高温では、化学反応を均一に進行させることのできる反応装置が限られます。衝撃波管装置は、衝撃波を利用して気体を瞬時かつ均一に加熱することができるため、理想的な高温反応装置であると言われています。しかし衝撃波は単発の現象であるため、実験の繰り返し性や再現性に課題があります。近年では、繰り返し性能に特化した高繰り返し型衝撃波管が開発されましたが、化学反応の観測に活用した例は限られており、特に反応速度の測定には用いられていませんでした。そこで、化学反応を分光学的に追跡するための高繰り返し型衝撃波管装置を新規開発し、その性能を検証しました。

     

    【成果】
     一般的な衝撃波管では、隔膜を用いて管を高圧部と低圧部に分け、破膜により低圧部に衝撃波を進行させ試料気体を加熱します。図に示す新規装置では、隔膜交換の手間を省くため、空気圧で急速に駆動するピストンを用いて隔膜を代替する方法を採用しました。反応後の排ガスを急速に排気する機構を実装するとともに、試料気体の導入から衝撃波発生、反応観測、真空排気までの一連の動作をすべて自動化することで、5秒に1回の繰り返し頻度で衝撃波実験を行うことが可能になりました。反応の観測には過渡吸収分光法を適用し、衝撃波加熱された気体試料が変化する挙動を光吸収量の変化として追跡します。反応速度が既知の試料に本手法を適用したところ、その反応速度を良好に再現し、本装置が一般的な衝撃波管と同等の高温環境を生成できる性能を有していることを確認しました[1,2]。これにより、従来の衝撃波管の加熱性能を維持しつつ高頻度での実験を実現しました。

     

    研究紹介_松木

    図 高繰り返し衝撃波管/過渡吸収分光装置

     

    【成果の意義・今後の展開】
     開発した装置では、様々な反応条件での高温化学反応を短時間で観測することが可能となりました。本装置の繰り返し性能は信号積算による観測精度の向上にも貢献し、これまで観測されていない化学反応を追跡することも可能となりました。例えば芳香族化合物の燃焼における反応中間体であるオルトベンザインの観測に成功しています[3]。今後は本装置により、炭化水素化合物やハロゲン化合物の燃焼に関する未知の反応を追跡することを目指します。

     

    ※ 本研究はJSPS科研費18K13709と20K04318の助成を受けたものです。

    [1] A. Matsugi, “A high-repetition-rate shock tube for transient absorption and laser-induced fluorescence studies of high-temperature chemical kinetics”, Review of Scientific Instruments, 91 (2020) 054101.
    [2] 松木 亮、「高繰り返し衝撃波管による高温化学反応の研究」、2021年度衝撃波シンポジウム (2022.3)
    [3] 松木 亮、「フェニルラジカルとオルトベンザインの熱分解反応」、第60回燃焼シンポジウム (2022.11)

    2023年03月23日