戦略的鉱物資源の都市鉱山ポテンシャル
畑山博樹(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
鉱物資源の大部分を輸入に依存している日本にとって、資源戦略は経済安全保障の観点から重要な検討課題です。特に、国内で発生する廃製品からのリサイクルは、自給自足による安定供給の手段として期待されています。このような“都市鉱山”の活用によって、「どの程度まで自給自足が可能なのか?」を分析することが資源循環の戦略的運用のために重要です。資源循環を定量的に把握するマテリアルフロー分析は、鉄鋼のような主要金属を対象に発展してきた一方で、生産・消費に関する情報が乏しいレアメタルを対象とした取り組みは十分ではありませんでした。そこで、日本の戦略的鉱物資源にあげられている金属を幅広く対象として、廃製品からのリサイクルによって達成可能な自給率の上限を明らかにしました。
【成果】
リサイクルによって達成可能な自給率の上限値は、都市鉱山のポテンシャルを表すものであり、マテリアルフロー分析により推計される国内廃棄量の消費量に対する比率として求められます(図)。消費量が飽和あるいは減少傾向にある金属が多い日本では、イットリウム、亜鉛、タンタルなど、廃棄量が需要量を上回っている金属も多く存在し、リサイクルの促進による自給率の向上が大きく期待できます。小型家電リサイクル法の制定などにより電気電子機器からの金属回収が進められていますが、イットリウム、タンタル、銅は特にそのポテンシャルが大きい結果となりました。ディスプロシウムやネオジムといったレアアースは、消費量が依然として増加傾向にあり中間製品の輸出も多いため、他の金属に比べて達成可能な自給率は低く推定されました。都市鉱山のポテンシャルが小さい金属は、海外からのサプライチェーン強化や素材代替、省資源化をリサイクルと並行して取り組むことが資源戦略において特に重要です。
図 各金属の消費量に対する廃棄量の比率(2020年)
【成果の意義・今後の展開】
資源の安定供給には、海外からの天然資源調達と国内の再生資源利用の両方を考慮した戦略が不可欠です。多種の金属を対象とした網羅的な都市鉱山ポテンシャルの推計により、リサイクルの優先度が高い金属や、リサイクル技術開発が有効な製品を特定することができます。さらに、将来を見据えた時系列分析に展開することで、「いつ、何を対象にリサイクルを進めるべきか?」という資源循環のロードマップを検討することが可能です。
※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP17001)の結果得られたものです。
2023年03月23日