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  • 海洋生分解性プラスチックに適用可能な河川モデルの開発
  • 海洋生分解性プラスチックに適用可能な河川モデルの開発

    石川百合子(環境暴露モデリンググループ)

    • 梶原秀夫(環境暴露モデリンググループ)

    【背景・経緯】
     近年、水環境中に流出したプラスチックごみが海洋中に蓄積する「海洋プラスチック問題」が国際的に懸念されています。この問題を解決するための一つの方法として海洋生分解性プラスチックの導入が注目されています。安全科学研究部門ではプラスチック製品に海洋生分解性を付加することによる海洋プラスチック低減効果を定量化する研究に取り組んでいます。河川流域における海洋生分解性プラスチックの導入前と後のプラスチックの濃度の違いを予測するため、産総研-水系暴露解析モデル(AIST-SHANEL)Ver.3.0をベースに、プラスチックの移流拡散、生分解、沈降・再浮上を考慮した動態解析(ただし、断片化は考慮せず)が可能となるよう開発を進めています(左図)。

     

    【成果】
     本研究の河川モデルは多摩川水系を対象としています。今回のシナリオでは各種文献に基づき、プラスチックの家庭排水および下水処理場からの排出量、沈降速度、生分解速度を設定し、沈降と生分解の有無による4ケースの解析を行い、沈降と生分解に関するモデルの応答特性を確認しました。従来のプラスチックは比重が1より小さく、海洋生分解性プラスチックは1より大きい傾向があるため、海洋生分解性プラスチックの導入前の沈降速度はゼロと仮定し、導入後の沈降速度はプラスチックの形状や比重を考慮した暫定値を設定しました。生分解速度は、海洋生分解性プラスチックの導入前についてはゼロと仮定し、導入後はこれまで得られた知見のうちの最大値を設定しました。最下流地点における解析ケース別のプラスチック濃度から、夏季は生分解が進みやすく濃度の低減効果が大きいこと、沈降したプラスチック粒子が底泥へ移行する可能性があること、底泥に沈降したプラスチックが出水時に巻き上がる可能性があることが示唆されました(右図)。

     

    研究紹介_石川

    図 河川・海域モデルの概念図(左図)と最下流地点における解析ケース別プラスチック濃度の時系列変化(右図)

    Case 1:沈降なし・生分解なし、Case 2:沈降なし・生分解あり、Case 3:沈降あり・生分解なし、Case 4:沈降あり・生分解あり

     

    【成果の意義・今後の展開】
     現在、稲作用の被覆肥料カプセルに海洋生分解性プラスチックが導入されたケースを対象として、プラスチックが残留する位置や時期、生分解による消失量を予測するシミュレーションを進めています。これらのプラスチックの低減効果を評価できれば、アジアで盛んな水稲栽培で用いられる被覆肥料のプラスチック問題に日本の技術が貢献できると考えています。モデルの検証は容易ではありませんが、不確実性解析などを活用しつつ開発を進めていきます。

     

    ※ 本研究は第56回日本水環境学会年会(2021年度)においてポスター発表したものです。
    ※ 本研究はNEDO「海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業/研究開発項目①海洋生分解性に係る評価手法の確立」の一環として行われました。ここに謝意を表します。

    2023年03月23日