衝撃圧縮下におけるペンスリット単結晶爆薬の粒子速度測定
若林邦彦(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
火薬類の安全な取り扱いや起爆感度の制御方法等の開発を目指し、衝撃を加えた際に起爆する現象(衝撃起爆現象)に関する研究を実施しています。衝撃起爆現象は衝撃波によって火薬類が圧縮される過程や圧縮状態、圧力開放過程などに依存するため、火薬類の衝撃起爆現象を研究するうえで、圧縮状態を明らかにすることは極めて重要です。これまでに、爆薬の一種であるペンスリット単結晶爆薬と類似な形状・透明性を有する不活性物質を用いた検証実験を実施し、レーザー速度干渉計を用いて非接触かつナノ秒程度の時間分解能で衝撃圧縮状態パラメーターの一つである粒子速度が測定できるようになりました。
【成果】
これまでに有効性が確認された上述の実験手法を用い、衝撃圧縮下におけるペンスリット単結晶爆薬の粒子速度を測定できることを実証しました。パルスレーザーを照射することによってアルミニウム箔(飛翔体)を加速し、衝突させることによってペンスリット単結晶爆薬を衝撃圧縮しました。飛翔体表面の粒子速度および飛翔体がペンスリット単結晶爆薬に衝突した際の界面の粒子速度を測定した結果を図に示します。飛翔体は時刻60 ns付近から加速し始め、一定速度に達した後、図中のimpactと表示された時刻においてペンスリット単結晶爆薬に衝突する様子が観測されました。
これらの結果から、以下の知見が得られました。
1)飛翔体表面が振動しながら加速していることが明らかとなり、飛翔体が固体の状態でペンスリット単結晶爆薬に衝突していることが分かりました。
2)衝突直後の界面の粒子速度が暫くの間一定(130 ns付近)であることから、圧力、粒子速度が平衡となる定常状態が実現していることが確認されました。
図 飛翔体表面の粒子速度
(図中のimpactの表示以降は、飛翔体とペンスリット単結晶爆薬の界面の粒子速度を示す。)
【成果の意義・今後の展開】
本実験条件では発光などの影響は認められず、レーザー速度干渉計による粒子速度測定において微小な試料を用いた微小領域・短時間測定が有効である見通しが得られました。希少性が高い物質や大量な取扱いが危険な物質に対しても有効な実験手法と考えられます。今後は広範な圧力領域におけるペンスリット単結晶爆薬の圧縮状態や状態方程式の精密測定を実施し、衝撃起爆現象の解明に取り組みたいと考えています。
2023年03月23日