含水爆薬中間体(ANE)の最小燃焼圧力(MBP)試験の実施とJISへの導入
岡田 賢(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
1966年から1995年の間に含水爆薬に関する事故が全世界で22件発生し、60人が死亡しています。事故の多くは、含水爆薬やその中間体をポンプ輸送する際の温度や圧力の異常上昇が原因と考えられています。これらの事故を防ぐために、含水爆薬及びその中間体の安全性を確認する最小燃焼圧力(MBP、Minimum Burning Pressure )試験)が開発され、2018年に国連8(e)試験に採択されました。一方、日本では、含水爆薬中間体を利用するバルクエマルションの鉱山発破やトンネル発破への導入が始まり、発破の安全性向上や省人化が期待されています。MBP試験を日本でも導入できるよう試験の実施とJISへの導入検討を令和4年度から開始しました。
【成果】
本年度は、諸外国と意見交換を進めながらMBP試験容器の設計と製作を行いました。容器は容量4L、最大圧力21MPa、動作圧力15MPaで、安全弁、電流導入端子、温度計、圧力計を備えており、高圧ガス保安法を遵守しています(図)。含水爆薬中間体である硝酸アンモニウムエマルション(ANE)の2種類(水分量11%と17%)のMBP試験を実施しました。内径16mm、長さ76mmのSUS製試験体にANEを充填し、容器中央に設置しました。アルゴン加圧し、様々な圧力下で試験体をニクロム線を用いて点火し、ANEの全量が燃焼したら「爆」、それ以外を「不爆」と判定しました。「不爆」となった最大の圧力値と、「爆」となった最小の圧力値の平均値をMBPとします。水分量11%と17%のANEのMBPは、それぞれ、3.61MPaと7.11MPaと得られ、日本で初めてMBPの測定が可能となりました。
図 最小燃焼圧力(MBP)試験装置
(左:装置の外観、右:サンプル設置状況)
【成果の意義・今後の展開】
令和4年度〜令和6年度の3年計画で、MBP試験を実施し、試験手法の確立と結果の妥当性を原案作成委員会で判断し、JIS K 4828-4(火薬類危険区分判定試験方法)の改訂を予定します。MBP試験は、物質固有の性質を測定する試験であり、ポータブルタンク輸送への適合性を確認する8(d)通気管試験といった大規模試験の代替とすることが国連で議論されており、含水爆薬中間体(ANE)が国連危険区分5.1(酸化性物質、非火薬)に分類されるための重要な試験です。
※ 本成果は、令和4年度産業標準化事業委託費(戦略的国際標準化加速事業:産業基盤分野に係る国際標準開発活動)の成果の一部で、公益社団法人全国火薬類保安協会、日本工機株式会社と共同で実験を進めています。
2023年03月23日