少量の爆薬を用いたアクリルのウゴニオ計測手法の開発
高橋良尭(爆発利用・産業保安研究グループ)
【背景・経緯】
固体中を伝播する衝撃波の状態を決定するためには、衝撃波を伝播する固体の密度(ρ)等の初期状態に加え、粒子速度(up)と衝撃波速度(Us)の関係(ウゴニオ)を計測する必要があります。通常このウゴニオ計測には衝撃銃といった大型の実験装置を使用し、固体中に平面波を発生させ、フォトンドップラー速度計などの高精度な計測装置を用いて計測することが一般的です。一回の計測に大変な労力と高度な計測技術を要します。そこで本研究では、より簡易で高精度なウゴニオ計測手法として、2.5gという少量の高性能爆薬を用いた新たな計測手法を考案し、その信頼性について検討を行いました。
【成果】
本研究では試験体として透明材料であるアクリルを選定し、厚さ2mm~70mmのアクリル板に対してウゴニオ計測を行いました。アクリル板の上部に爆薬を設置し、アクリル中に衝撃波を発生させその様子を高速度カメラで撮影し、得られた図(a)に示す可視化画像をもとに衝撃波速度を算出しました。実験では同時に圧力ゲージにより衝撃圧(P)を計測しました。これらの計測結果をもとに衝撃波の運動量保存則(P=Us・up・ρ)から粒子速度を計算することで、アクリル厚ごとのウゴニオを評価しました。本研究で得られたウゴニオは衝撃銃などを用いて得られた各種文献値と遜色ない結果を示していました。また特筆すべきは、図(b)に示すように非線形性があることが知られているup < 0.5 km/sにおいて計測結果は各種文献値(1), (2), (3)と同程度の精度で計測ができている点です。本研究により少量の爆薬を利用した、平面波を必要としない比較的簡易な本計測手法で精度よくアクリルのウゴニオを計測できることが明らかとなりました。
図 本実験で得られた可視化画像の一例とウゴニオ
【成果の意義・今後の展開】
爆発荷重を受ける材料内に発生する衝撃波の伝播シミュレーションなどを実施する際、ウゴニオは必要不可欠なパラメータとなります。実験の度に試験体が破壊されるため、ウゴニオの計測は一回の実験で一点の計測しかできず、従来の計測手法より簡易で高精度な実験手法の開発は極めて重要になります。本結果は2022年度衝撃波シンポジウムで発表しました。本計測手法はアクリルに限らず、その他の透明材料にも適用できる可能性を秘めており更なる研究の発展が見込まれます。
参考文献
(1) Barker, L. M. et al., Journal of Applied Physics 41, 4208–4226 (1970).
(2) Marsh, S. P., LASL Shock Hugoniot Data. University of California press, Berkeley (1980).
(3) Jordan, J. L. et al., Journal of Dynamic Behavior of Material 2, 372–378 (2016).
2023年03月23日