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  • バスの運転席横の防御板およびデフロスター/換気扇による新型コロナウイルス感染症の感染リスク低減効果
  • バスの運転席横の防御板およびデフロスター/換気扇による新型コロナウイルス感染症の感染リスク低減効果

    篠原 直秀(排出暴露解析グループ)

    • 内藤 航(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して、感染拡大初期から様々な対策が検討・導入されてきました。その中には、科学的に対策効果が確認されていないものも少なからず含まれており、産総研ではこれまでに鉄道やバスの換気による空気清浄化と感染リスク低減効果の評価など、科学的知見に基づく効果的かつ実用的な対策の研究を進めてきました。本研究では、実際の路線バス内の運転手の斜め前や斜め後ろから人工飛沫を発生させた際の運転手やその周辺機器表面への沈着量や、人工飛沫核を発生させた際の運転手呼吸域の気中粒子濃度を測定することにより、感染対策として導入されたバスの運転席横のアクリル板やポリ塩化ビニルシートなどの防御板や換気扇の使用による感染リスク低減効果を評価しました。

     

    【成果】

     感染経路には、感染者から吐出された飛沫が直接粘膜に付着して生じる飛沫感染、ウイルスが付着した表面に触れた手で粘膜を触れて生じる接触感染、飛沫の直接吸引や飛沫が乾燥した飛沫核の吸入で生じる空気感染の3つの経路があります。感染対策として防御板を使用すると、発生した人工飛沫の運転手の目・口・頬への沈着量は2~3桁以上減少しました(図中①、②-1)。また、運転席周辺機器の表面への沈着量も、大きく減少しました(図中③)。一方、換気扇・デフロスターの作動により、人工飛沫の運転手の顔への沈着量はやや増加し(図中④)、機器表面への沈着はやや減少しました(図中⑥)。人工飛沫核は、換気扇・デフロスターの作動により運転手の顔付近の濃度が大幅に減少しましたが(図中⑤-2)、防御板の使用では減少しませんでした(図中②-2)。全体として、3つの経路による総感染リスクは、防御板を使用した場合に75.0~99.8%減少しました。防御板を使用しなかった場合、換気扇・デフロスターの作動で感染リスクは9.74~48.7%減少しました。

    図 防御板の使用、換気扇およびデフロスター作動による新型コロナウイルス感染症の感染リスク低減効果

     

    (上向きの矢印は増加、下向きの矢印は減少、矢印の太さは増加/減少の大小を示している。例えば、換気扇・デフロスターの飛沫核感染の吸引性粒子(図中⑤-1)は、発生源位置によってリスクがやや増加する場合と大きく下がる場合があったことを示している)

     

     

    【成果の意義・今後の展開】

     本研究では、防御板や換気扇の感染リスク低減効果を明らかにしました。今後は、空調フィルターなど、他の対策導入による感染リスク低減効果に関して研究を進めていきたいと考えています。さらに、感染対策のみならず、温熱環境やにおいの対策について、安全かつ快適な公共交通機関の車内環境の実現のために、各種対策の効果を車内でセンシングし、乗客にどう見せていくかという見える化に関する研究を進めていきたいと考えています。

     

     

    ※ 本研究は、尾方壮行 (東京都立大)、金勲 (保健医療科学院)、鍵直樹 (東工大)、達晃一 (いすゞ自)との共同で実施いたしました。また、一般社団法人東京バス協会からの受託研究「東京都 路線バスにおける感染症対策に係る検証」により実施しました。

     

    書誌情報: N. Shinohara, M. Ogata, H. Kim, N. Kagi, K. Tatsu, F. Inui, W. Naito. (2023). Evaluation of shields and ventilation as a countermeasure to protect bus drivers from infection. Environmental Research 216: 114603. https://doi.org/10.1016/j.envres.2022.114603

     

    2023年08月02日