水素ステーションの受容性モデルの構築
小野恭子(社会とLCA研究グループ)
【背景・経緯】
水素社会に向け燃料電池車(FCV)が広く普及するには、FCVに水素を充填する社会インフラである、水素ステーション(HRS)の導入が不可欠です。HRSは水素に関する爆発・燃焼の懸念が持たれる可能性があり、新しく導入する際には住民等のステークホルダーに対し、リスク情報も含めた説明が不可欠です。HRSにかかわるリスク情報を一般市民に提示した場合、その受容性がどの程度変化するのかを明らかにすることは、HRSという新しい社会インフラに関する情報提供やリスクコミュニケーションのあり方を検討するうえで重要です。このため、HRSの社会受容性調査を継続的に行っています。
【成果】
これまでの社会受容性調査では、「あなたの家の隣にHRSが新しく建つ」ことを想定して答えてもらった場合に、リスク情報を提供した群で受容性が高まるという結果が得られています。本研究では、情報提供で受容性が高まる傾向にある人はどのような性質を持つかを解析するため、HRSの受容性に関する構造方程式モデルを構築し、一般市民の認知構造を解析しました。
図に示すように、受容性は、リスク情報を提示した群、リスク情報を提示しなかった群のどちらでも「HRSに対する恐ろしさの認識」(図中では「HRS恐ろしさ」)と「自発的な行動を好むか」(同、「自発的な行動」)によって説明できる一方で、「HRSの知覚できない悪影響」(同、「HRS未知性」)は説明できないことが明らかになりました。リスク情報を提示した群については、それらに加えてバランスの良い行動を好むか(図中では「バランスの良さ」)も説明因子となりました。
書誌情報:Kyoko Ono, Etsuko Kato, Kiyotaka Tsunemi (2022). Construction of a structural equation model to identify public acceptance factors for hydrogen refueling stations under the provision of risk and safety information, INTERNATIONAL JOURNAL OF HYDROGEN ENERGY,47-,pp.31974-31984
図 リスク情報を提示した群とリスク情報を提示しなかった群における、水素ステーションリスク認知に関する構造方程式モデル
(パスの実線は正の相関を、破線は負の相関を示す。有意でないパスは灰色とし係数は記載しなかった。パスの係数について、**:P < 0.01で統計的有意差あり。***:P < 0.001で統計的有意差あり。)
【成果の意義・今後の展開】
本研究により、HRSの情報提供の有無によって、一般市民の受容性に影響を与える因子が、どのように変化するのかを具体的に明らかにすることができました。この成果を事業者が情報提供の場で活用することによって、住民等のステークホルダーとより円滑なコミュニケーションがとれ、信頼関係が作られると期待されます。
※ 本研究は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):エネルギーキャリア「エネルギーキャリアに関するステーションとその周辺に対するリスク評価手法開発と社会受容性調査」(2014-2018年度)、およびトヨタモビリティ基金の助成を受けて行われたものです。
2023年08月02日