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  • 河川中金属濃度及びミジンコ類を用いた生物応答試験結果を底生動物群集に基づく野外影響レベルと関係づける
  • 河川中金属濃度及びミジンコ類を用いた生物応答試験結果を底生動物群集に基づく野外影響レベルと関係づける

    岩崎雄一(リスク評価戦略グループ)

    • 眞野浩行(リスク評価戦略グループ)
    • 篠原直秀(排出暴露解析グループ)

    【背景・経緯】

     河川などの水環境では、複数の化学物質が同時に存在しているため、その複合曝露による生態リスクを評価し、実際の生態影響を予測する方法を構築する必要があります。本課題に対して様々な評価・調査手法が提案されていますが、どの手法を用いれば実環境での複合影響を適切に評価できるかは明確ではありません。
     複合影響評価において、個別の化学物質の環境中濃度を環境基準等で除した値の和(ハザード比(HQ)の和)は、有望な評価方法の一つです(個別物質ベースの評価:図参照)。また、採水試料の総合的な毒性を直接評価する生物応答試験(環境水にミジンコ類などを曝露し毒性影響を調べる試験方法)も有用ですが、これらの評価結果と実環境での影響レベルの関係についてはまだ知見が限られています。

     

    【成果】

     休廃止鉱山が流域内に存在する4つの流域の合計26箇所での野外調査結果を基に、河川中の金属濃度(銅、亜鉛、カドミウム、鉛)に基づくHQの和と、河川水を用いたミジンコ類の急性及び慢性の生物応答試験で観測された影響レベル、そして底生動物調査結果に基づく野外環境での影響レベルとの関係を評価しました(図参照)。その結果、例えば、米国の水質クライテリアに基づくHQの和が1以上5未満の地点では、金属に対する感受性が高いカゲロウ類の個体数や種数の減少がほとんど観察されませんでした。一方、HQの和が5~10以上またはミジンコ類の急性及び慢性の生物応答試験の両方で有意な影響が観測された地点では、カゲロウ類の個体数や種数の減少が観測されました。これらの成果は、Environmental Advances誌に論文として公開されており(Iwasaki et al. 2023)、生物応答試験の詳細な結果はMano et al.(2022)で報告しています。

     

    図 本研究の調査・評価デザインの概要
    Iwasaki et al.(2023)のグラフィカルアブストラクト(CC BY 4.0)を改変

     

     

    【成果の意義・今後の展開】

     本研究の成果より、鉱山下流の金属濃度が高い河川において、水質調査(金属濃度の測定)及び河川水を用いたミジンコ類の生物応答試験から、金属感受性の高いカゲロウ類の個体数や種数に基づく野外影響レベルを簡易的に推測可能であることを示すことができました。学術的には古典的な問いに対するある種地味な成果ですが、あまり真面目に取り組まれておらず、水質測定や生物応答試験の結果と野外で観測される影響を結びつけることができた貴重な成果だと自負しています。

     

     

    【引用文献】

    Yuichi Iwasaki, Hiroyuki Mano, Naohide Shinohara (2023) Linking levels of trace-metal concentrations and ambient toxicity to cladocerans to levels of effects on macroinvertebrate communities. Environmental Advances. 11:100348. https://doi.org/10.1016/j.envadv.2023.100348

     

    Hiroyuki Mano*, Yuichi Iwasaki, Naohide Shinohara (2022) Effect-based water quality assessment of rivers receiving discharges from legacy mines by using acute and chronic bioassays with two cladoceran species. Water Supply. 22(4): 3603–3616. https://doi.org/10.2166/ws.2022.003

     

     

    ※ 本研究の一部は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20185R01、JPMEERF20225005)に支援された。

    2023年08月02日