書籍「Theories in Ecological Risk Assessment」の出版
加茂将史(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
生態リスク評価は実学的要素が強いので、理論的な研究にはあまりお目にかかりません。もちろん、理論を中心とした研究もあります。それらは重要な意味を持つにもかかわらず、数式を読み解くことが困難であるがゆえに日の目を見ることなく忘れ去られてしまうこともあります。これは貴重な学術成果の損失です。数学的アクセスの困難性が忘却の原因であるのであれば、アクセス可能なガイドをつければ良いということをコンセプトに本書の執筆を行いました。短い記述が要求される学術論文とは異なり、書籍では詳細な記述も可能です。その式にたどり着くまでの過程を丹念に記すことで、その式の意味を理解しその式を自分で使いこなせるようになってもらいたいというのが本書の目的です。
【成果】
書籍は2部構成、8章からなります。第1部は集団レベルのリスク評価についてです。第1章で生態リスク評価の簡単な紹介を行い、第2章で集団動態モデルの作り方、第3章はモデルを用いた個体群評価の事例研究を紹介しています。第4章では絶滅までの平均待ち時間を用いて、生態系に負荷を与える様々な質の異なる影響を等価に比較できる方法について記述しています。この方法論は、至るところに応用できる高いポテンシャルを秘めており、何がなんでも書きたかった内容になります。その式は私自身が導出したものではなく、私も本章を書くにはかなり勉強する必要がありました。かなり詳しく式の導出を書きましたので、最後の式にたどり着けるはずです。みなさんも挑戦してみてください。
第2部はリスク評価に用いられるその他のモデルを紹介しています。第5章は種の感受性分布について。特に、分布の不確実性を如何にして定量するかを紹介しています。第6章は金属毒性を予測するモデル、第7章は複合影響、第8章は統計の考え方の紹介です。
図 「Theories in Ecological Risk Assessment」表紙
詳細は
https://link.springer.com/book/10.1007/978-981-99-0309-2
【成果の意義・今後の展開】
理論研究は難しくてよくわからないと思われることでしょう。けれども、謎を解く、答えを知るというのは、楽しいことなのです。理論研究では、謎解きで言葉の代わりに数式を用いているだけで、謎解きの楽しさという点については何も変わりません。慣れぬ山登りは不安が先行しますが、ガイドがあれば登れます。なぜこの式が出てくるのか、この式を得ることで何がわかるのか、そういう知的冒険のガイドを本書では目指しています。是非、旅のお供に。
2023年08月02日