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  • 安全対策の経済的評価ツールの開発と公開
  • 安全対策の経済的評価ツールの開発と公開

    牧野良次(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】

     労働災害や産業事故は労働者の命や健康を害するだけでなく企業の生産性にも悪影響を及ぼします。これらを避けるために安全対策を実施しますが、企業内の予算や人員は限られているので、望ましい結果を得るにはそれらの資源をできるだけ効率的に使う必要があります。中央労働災害防止協会は、安全対策費の持続的投入を進めるためには費用投入の効果を評価する必要があると指摘しました。しかし、そのような評価を実施するために企業を支援する仕組みは未だ整備されていません。そこで中央労働災害防止協会からの委託を受け、製造業を対象として企業が自社の安全対策の経済的評価を事前にかつ簡便に実施できるよう支援する方法論・評価ツールの整備およびその普及を行うことを目的とした研究を実施しました。

     

    【成果】

     安全対策の経済的評価ツールを開発し公開しました。この評価ツールは安全対策の費用(初期費用やランニングコストなど)と便益(リスクが低減されることの望ましさ)を金銭の単位で評価して大小関係を比較し対策の費用対効果を評価するもので、Microsoft Excelで作成されています。評価ツールでは、業種、事故の型、および起因物を選択することによって評価対象とする労働災害を指定します。現在(安全対策実施前)と安全対策実施後の安全レベルを設定することにより、安全対策前後の労災発生回数を評価できるようにしました。さらに安全対策にかかる費用と災害が発生した場合に生じる損害を入力することによって、対象労働災害の発生回数を減らすことの純便益(便益マイナス費用)を計算することができます。
     評価ツールを使って安全対策の経済的評価を実施することにより、安全対策の選択、経営トップへの説明、労働者の安全意識向上、安全担当者の貢献の明確化などの望ましい効果が期待できます。

     

    報告書・評価ツールURL:https://www.jisha.or.jp/research/report/index.html

     

    図 安全対策の経済的評価ツール概要

     

     

    【成果の意義・今後の展開】

     この研究は、安全対策への投資に関する経営判断や安全担当者の経営貢献の評価の適正化に資するものです。今後は災害発生頻度や災害発生時の間接損害額など計算根拠となるデータの継続的改善および評価実例の収集を進め、評価ツールを改善する予定です。また、安全対策の取り組みが遅れていると言われており、労働災害全体の5割を超える災害が発生している第3次産業への展開も目指します。

     

     

    ※ これは、中央労働災害防止協会の委託事業「安全対策の経済的評価に関する調査研究(2020〜2022年度)」の成果です。

     

    2023年08月02日