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  • 普通乗用車における素材代替のLCA評価:素材は製造時の環境負荷が問われる時代に
  • 普通乗用車における素材代替のLCA評価:素材は製造時の環境負荷が問われる時代に

    河尻 耕太郎(環境暴露モデリンググループ)

    【背景・経緯】
     近年、環境問題が注目されてから、素材代替が環境負荷削減の有力な選択肢の一つとして認識されてきた。特に、乗用車をはじめとする耐久消耗品については、ライフサイクル全体において使用段階の環境負荷が太宗を占めます。そのため、素材代替によって、製造段階の環境負荷が多少増加しても、使用段階の環境負荷を削減できるため、製品の耐用期間において、製造時の環境負荷の増加分をキャンセルし、ライフサイクル全体での環境負荷を削減できると目されてきました。しかしながら、近年、製品の電動化、省エネ技術の向上に伴い、使用段階の環境負荷が減少していく中で、素材代替による使用段階の環境負荷の削減効果が減少しつつあり、素材の製造に伴う環境負荷の重要性が高まりつつあります。

     

    【成果】
     本研究では、最初に日本とアメリカにおける普通乗用車の車重と燃費、素材の変化を時系列で解析しました。次に、普通乗用車の素材を代替したときの温室効果ガス(GHG)削減効果をライフサイクル全体で評価するため、GHGペイバック距離(※)の簡易推計手法を提案した。最後に、鉄から他素材(高張力鋼板、アルミニウム、炭素繊維、マグネシウム)に代替したときのGHGペイバック距離を評価しました。
     本研究により、長期的に、普通乗用車に使用される軽量素材の重量比が増加する一方、車重は増加し、燃費が向上していることが明らかになりました。また、本研究で開発されたGHGペイバック距離の推計手法により、高張力鋼板への代替は、普通乗用車の耐用年数内で間違いなくGHGを削減できる一方、アルミニウムと炭素繊維は、近年の燃費の改善により、特に日本においては乗用車の平均的な生涯走行距離(10~15万キロ)でのGHG削減が難しくなりつつあることが示されました。
     本成果は2020年にJ. Cleaner Production誌(IF:11.1)に掲載され、76件(Google scholar)に引用されています。

    ※ 素材代替による製造時のGHGの増加量を使用段階のおけるGHGの削減量でキャンセルできるまでの走行距離。

     

    図 日本とアメリカにおける素材代替に伴うGHGペイバック距離(※)
    (Kawajiri, Kobayashi, and Sakamoto, J. Cleaner Production, Vol. 253, 2020, 119805のFig. 8を許可を得て転載)

     

    (※)S: 鉄、HS:高張力鋼、Al:アルミニウム、CF:炭素繊維、Mg:マグネシウム

     

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本成果により、近年の乗用車の電動化や燃費の改善により、将来的に素材代替によるGHG削減がさらに難しくなることが予想され、今後は素材の製造段階の環境負荷削減がより重要になってくることが示唆されました。現在、アルミニウムや炭素繊維等について、革新的な製造技術やリサイクル技術の環境影響評価に携わっており、これら将来技術の実用化を支援することで、素材代替によるGHG削減に貢献していきます。

    2023年09月07日