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  • 将来の水素エネルギーの有効な利活用に向けた燃焼挙動解析を推進
  • 将来の水素エネルギーの有効な利活用に向けた燃焼挙動解析を推進

    佐分利 禎(爆発利用・産業保安研究グループ)

    • 朝原 誠(爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
     持続可能な将来のエネルギー源として水素エネルギーが注目されています。水素は可燃濃度範囲広く、低いエネルギーで容易に着火し、燃焼速度も速いため、燃焼・爆発のリスクが高いとされています。そのため、普及に向けては水素の製造から輸送、貯蔵、消費までの過程の適切な取り扱い方法を検討し、燃焼・爆発時の影響評価や被害低減策などの安全性評価を推進しています。また、この安全性を確保した上で、持続可能なエネルギー源としての水素の有望性を最大限に引き出し、効率的な利用を目指す水素エネルギー利用技術に関する研究も進めています。今回は岐阜大学との共同研究による水素の爆轟現象を推進力として利用することを目的にした燃焼挙動研究[1]を紹介します。

     

    【成果】
     旋回する可燃性予混合気流の中では火炎が高速に伝播することが知られており、Chomiakら[2]は火炎前後での圧力差が火炎を駆動させる圧力駆動メカニズムを提唱しています。これによると旋回の周方向(角)速度が大きいほど未燃ガスと既燃ガスの圧力差が大きくなり、燃焼が促進されることが期待されます。旋回流の形成に静止円管を用いた場合、軸方向の速度分布や、旋回の強さの減衰、乱流効果の影響などで流れが複雑になるため、本研究では 図(a)に示すような円管自体を回転させる管回転装置を用いることで旋回の強さが火炎伝播に与える影響を直接的に評価できるようにしました。
     旋回流中で水素予混合ガスに着火し、火炎伝播の様子を高速度カメラで撮影した結果を時系列に並べたx-t図を図(b)に示します。火炎先端位置の傾きから火炎伝播速度が評価され、管回転装置の回転角速度ωを変えて実験することにより、ωの増加つまり旋回の強さの増大に伴い火炎伝播速度が上昇する結果が得られました。

     


    (a) 実験装置概要図

    (b) 火炎伝播挙動(x-t線図)

    図 管回転装置の実験装置概要(左)と高速度カメラで観測された火炎伝播挙動(右)

     

    [1] 水野綜太郎, 林陸, 朝原誠, 佐分利禎, 髙橋良尭, 宮坂武志, 高速回転させた管内における周方向速度と火炎伝播速度の関係, 日本流体力学会年会2022.
    [2] Chomiak, J., Proc. Combust. Inst., 16 (1976) pp1665–1673.

     

    【成果の意義・今後の展開】
     旋回流による水素の高速火炎伝播のメカニズムについて研究を進めることで、水素をエネルギー源とした燃焼・推進デバイスの高効率化・コンパクト化が可能となり、将来の水素エネルギーの有効な利活用に向けた応用が期待されます。今後は特に水素の爆轟現象に注目し、旋回流中で爆燃状態から爆轟状態に遷移するまでの距離(DDT距離:Deflagration to Detonation Transition distance)についての研究を進めていく予定です。

    2023年09月07日