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  • 国内河川の水質条件でみられるニッケル生態毒性の変動性を把握する
  • 国内河川の水質条件でみられるニッケル生態毒性の変動性を把握する

    眞野 浩行(リスク評価戦略グループ)

    • 篠原 直秀(排出暴露解析グループ)
    • 内藤 航(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
     水生生物に対する金属類の有害性は硬度や有機炭素濃度等の水質によって変わることが知られています。現在、ニッケルについて、水生生物の保全に係る環境基準値のベースとなる水質目標値が検討されています。ニッケルの水質目標値を検討するにあたって、国内の水環境における水質条件の違いによって、水生生物に対するニッケルの生態毒性が、実際にどの程度変動するのかといった疑問に答える基礎的な知見が求められています。このような知見を得るためには、異なる水質の水試料を試験培地に用いて、水生生物を用いたニッケルの生態毒性試験を実施し、ニッケルの生態毒性の変動性を調査する必要があります。

     

    【成果】
     本研究では、ニッケルの生態毒性に関連する3種類の水質項目(硬度、溶存有機炭素(DOC)及びpH)に着目し、異なる水質の国内河川水を試験培地に使用して、オオミジンコを用いたニッケルの生態毒性試験を行い、国内河川が取りうる水質項目値の範囲でのニッケルの急性及び慢性毒性の変動性を調査しました。硬度とDOCが異なる5つの清浄な河川から水試料を採取し、低硬度の河川水のpHを6.8と7.4、高硬度の河川水のpHを7.4と8.2に操作しました。上記の作業により用意した異なる水質の水試料を用いて、ニッケルのオオミジミジンコ急性及び慢性毒性試験を実施しました。
     図は急性及び慢性毒性試験の結果を示しています。使用した河川水間で、急性試験から求めた毒性値(半数致死影響濃度)は0.62~5.3 mg/L(図a)、慢性毒性試験から求めた毒性値(10%影響濃度)は7.8~22.3μg/L(図b)の変動が確認されました。試験結果から、オオミジンコに対するニッケルの急性及び慢性毒性は、国内河川の水質条件下で変動し、DOC、硬度及びpHに影響を受けることが示唆されました。

     

    図 異なる水質の河川水を試験培地に用いたニッケルのオオミジンコ生態毒性試験の結果
    a) 48時間の急性毒性試験から求めたニッケルの半数致死影響濃度、b) 21日間の慢性毒性試験から求めたオオミジンコの繁殖に対するニッケルの10%影響濃度

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究の結果は、我が国において淡水域でのニッケルの水質目標値を設定する際に、硬度やpH、DOC等の水質条件を考慮する必要があることを示しています。本研究で得られた成果は、ニッケルの水質目標値の設定に活用されることが期待されます。今後、硬度やpH、DOC等のニッケルの毒性に関係する水質項目の違いを考慮して、国内の水環境におけるニッケルの生態毒性を評価する手法の開発に取り組みます。

     

    【引用文献】

    Mano and Shinohara (2020) doi: https://doi.org/10.1007/s11270-020-04842-1
    Mano et al. (2022) doi: https://doi.org/10.1007/s11356-021-18335-z

     

    ※ この研究は鉄鋼環境基金の研究助成及びニッケル生産者環境研究協会(NiPERA)の助成金により行われました。

    2023年09月07日