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  • 中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)の製品含有実態と環境運命を知覚する技術
  • 中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)の製品含有実態と環境運命を知覚する技術

    頭士 泰之(排出暴露解析グループ)

    • 松神 秀徳(国立環境研究所)
    • 羽成 修康(物質計測標準研究部門)

    【背景・経緯】
     国際条約で製造・使用・輸出入が規制されている物質に短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)というものがあります。これは炭素鎖長が10~13(C10~C13)で、その内のいくつかの水素原子が塩素原子に置換されたものであり、特に塩素化率が48%を超えるものが規制対象となります。またC14~C17である中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)についても、国際的な規制に関する議論が進められています。しかしSCCPsとMCCPsは潤滑油、難燃性を付与する目的として樹脂添加剤、その他様々な用途に使用されてきた歴史があり、至る所に存在し廃絶は容易ではありません。特にMCCPsの国内ストック量は数千トンに上ると推定されています1)。そこで本研究ではSCCPsに加え、製品中に含まれるMCCPsをも迅速に見分け、それらが辿りうる環境運命を把握できる技術の開発を行いました。

     

    【成果】
     MCCPsは炭素・塩素数および塩素位置により様々な同族体・異性体を有します。その数は1炭素に1塩素までしか置換しないという仮定を設けても123,452に上る事が分かりました。SCCPsの場合7820なので、炭素数が増える事で爆発的に構造数が増える事が伺えます。こうした多数の構造体を有するMCCPsについて、製品含有実態を網羅的に捉えるためノンターゲット分析装置である包括的2次元ガスクロマトグラフ(2次元GC)を用いました。図1にポリ塩化ビニル(PVC)製樹脂の電気絶縁電線(被覆部)試料の分析結果を示します。ノンターゲット分析では多数の化学成分が検出されるため、これらと塩素化パラフィン(CPs)の見分けが困難な場合があります。そこで今回MCCPsとSCCPsの取りうる化学構造を列挙し、そこから分子特徴を示す分子記述子を算出し、それに基づき各々の溶出位置を予測しました (図1)。これにより本試料が主としてMCCPsを含む事を迅速把握できました。溶出位置以外にも生物蓄積ポテンシャルを計算し、検出されたMCCPsは生物に比較的移行蓄積しにくい事を把握する事ができました。

     

    公表成果:
    1) SCCPsおよびMCCPsの2次元GCによる分離同定に関する検討,頭士 泰之, 松神 秀徳, 羽成 修康,第31回環境化学討論会,あわぎんホール, 2023

     

    図1 PVC電気絶縁電線試料に関するフロー型2次元GC分析結果とCPsの予測溶出位置
    a) SCCP予測溶出位置の重ね合わせ
    b) MCCP予測溶出位置の重ね合わせ

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本成果は時間・労力・経済面で高コストとなる現在のCP化学分析に対し、廉価な装置でSCCPsと分別しながら迅速にMCCPsを検出把握できる技術を創出したもので、増大化するプラスチック製品中CP含有判定の作業を支援し得るものです。また注意すべき環境運命や高リスクを示す物質を含む検体の発見に利用でき、安全社会構築に資すると期待できます。今後は校正物質拡充による精度向上、含有濃度や組成の詳細把握が必要な場合に向けて高度検出器を組み合わせた技術も検討していきます。

     
     

    ※ 本研究はJSPS科研費(19H04297, 23H03557)の助成を受けました。ここに謝意を示します。

     

    【参考文献】
    1) Chen, C. et al., Environmental Science & Technology 2022, 56, (12), 7895-7904

    2023年09月07日