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  • 国内大気汚染物質濃度の将来変化とヒト健康リスク評価
  • 国内大気汚染物質濃度の将来変化とヒト健康リスク評価

    秦寛夫(環境暴露モデリンググループ)

    • 井上和也(環境暴露モデリンググループ)
    • 吉門洋(環境暴露モデリンググループ)
    • 玄地裕(安全科学研究部門長)
    • 恒見清孝(安全科学研究部門)

    【背景・経緯】
     2023年夏の世界的な猛暑からもわかるように、気候変動の影響は一段と身近に感じられ、その抑制は緊急の課題です。2050年カーボンニュートラルを目標に世界各国の関係機関が施策の検討と脱炭素技術の開発とその普及を進めています。気候変動対策は主に、燃料の燃焼に由来する二酸化炭素(CO2)の排出を、太陽光発電や電気自動車等の脱炭素技術の導入で抑制することが主軸となります。脱炭素技術の導入は、CO2のみならず窒素酸化物や揮発性有機化合物、およびそれらの大気化学反応で生成する対流圏オゾン(O3)や微小粒子状物質(PM2.5)といった人体に有害な化学物質の削減に繋がります。本研究では、2050年の脱炭素技術の導入に伴うO3とPM2.5濃度の削減効果を検討しました。

     

    【成果】
     本研究では、大気中の化学物質の移流や拡散、化学反応、沈着現象を予測するシミュレータである領域大気質モデルCommunity Multiscale Air Quality model(CMAQ)に2050年の気象場と人為起源排出量を入力することで、2050年の2015年に対するO3とPM2.5濃度の変化を試算しました。脱炭素技術導入に伴う前駆物質の削減効果でO3濃度が減少する一方で,気候変動に伴う紫外線強度の増加により、春季に二次生成のPM2.5濃度が増える可能性が示唆されました。これらの影響により、ヒトの早期死亡者数は国内全体で4000人減少することが試算されました。本研究成果は大気汚染や気候変動に関する国際学会ACID RAIN 2020(2023年4月に新潟にて開催)にて研究報告を行い、さらに国際学術誌Science of the Total Environmentに研究成果の一部が掲載されました(Hata et al., 2023)。

     

    図 脱炭素技術導入と気候変動に伴う(a)現在(2015年)と(b)将来(2050年)
    における夏季のO3濃度の変化

     

    Hata, H.; Inoue, K.; Yoshikado, H.; Genchi, Y.; Tsunemi, K. Impact of introducing net-zero carbon strategies on tropospheric ozone (O3) and fine particulate matter (PM2.5) concentrations in Japanese region in 2050. Sci. Total Environ. 891 (2023) 164442.

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究ではネットゼロ社会実現と気候変動がもたらす大気汚染物質濃度変化、およびそれに付随するヒト健康リスクの評価を行いました。今後も気候変動に起因する大気汚染物質濃度変化の事象別の詳細な解析を実施すると同時に、2050年に窒素循環技術等のサーキュラーエコノミー技術を導入した場合の大気リスク評価を行う予定です。この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP18016)の結果得られたものです。

    2023年12月05日