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  • 豪雪地帯の地方自治体(北海道ニセコ町)における電気自動車普及の課題と対応方策
  • 豪雪地帯の地方自治体(北海道ニセコ町)における電気自動車普及の課題と対応方策

    櫻井啓一郎(社会とLCA研究グループ)

    【背景・経緯】
     気候変動の悪化が懸念される中、世界有数の豪雪地帯である北海道ニセコ町においても、脱炭素化が目指されています。その一環として道路輸送における電気自動車(EV)の利用が検討されていますが、最大の積雪深が約3メートルに及ぶこともあります。これほどの豪雪地におけるEVの運用は世界的にも前例に乏しく、特有の課題が多数あります。ガス欠ならぬ電欠になった車を救出する時には、どのような備えが必要か。大型の除雪車をEV化できるか。屋外の駐車場において、どのように充電器を設置すれば良いか。公共交通のEV化をどう進めるか。そのような課題に対して、解決策の検討と提案を進めています。

     

    【成果】
     ニセコ町と周辺の主要自治体との間の幹線道路の中には、山間を50~60km以上縫って走るものもあります。将来たくさんのEVが一度に閉じ込められて電欠になった場合、現場での充電電力量を最小限に留めて円滑に救助を進めるために必要な備えの検討を行いました。現在一般的なバッテリーの性能では20~30km以下、今後バッテリーの重量エネルギー密度が2倍になったと想定しても50km以下での間隔で、恒久的、または臨時の急速充電拠点を設けられるようにする必要があると見積もられました。
     大型の除雪車両については燃費(図)や一日あたりの稼働時間のデータを収集し、EV化の可能性を検討しました。現状のバッテリーでは車両重量が3~4割増加するケースもあると見積もられた一方、重量エネルギー密度の向上や、バッテリーの充電速度の向上で、1~2割程度の重量の増加で済む可能性が考えられます。一方でそれらの大型EVの運用拠点では普通充電だけでMW単位の電力が必要になり、配電線の増強が必要になると見積もられました。

     

    図 ニセコ町における大型除雪車両の燃費の例
    (データ提供:牧野工業(株))

     

    【成果の意義・今後の展開】
     地方自治体の脱炭素化は全国一律のやり方では済まず、地域ごとの事情や使えるもの(資源)に応じて立案する必要があります。ニセコ町の積雪量は他の地域に比べて厳しい条件ですので、ここで得られた知見は、他の積雪地の自治体にも横展開できるものと期待されます。一方で上記以外にも、住宅の脱炭素化とEVとの連携や、地域内で発電した再エネを活用する方策など、多くの課題が考えられます。地方自治体の脱炭素化の推進のため、順次対策の立案を進めて参ります。

    2023年12月05日