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  • 資源供給障害の事例分析に基づいた供給リスクの国別評価
  • 資源供給障害の事例分析に基づいた供給リスクの国別評価

    畑山博樹(持続可能システム評価研究グループ)

    • 村上進亮(東京大学大学院工学系研究科)

    【背景・経緯】
     日本は鉱物資源をはじめとした多くの資源を輸入しており、その安定供給のためには資源国がどのようなリスクを抱えているかを理解する必要があります。先進国の政府機関による資源戦略の検討では資源国の政治的、経済的側面を考慮した供給リスク評価を実施しており、各国のクリティカルマテリアル(戦略的重要性の高い材料)の特定に反映されています。その一方で、過去の供給障害の多くが自然災害、事故、ストライキに起因することが分かっており(※)、これらの地域性を明らかにすることが供給リスクの適切な評価のために不可欠です。そこで、これら3つのリスク要因を対象に、国別リスクを評価するための手法開発に取り組みました。

    ※ H. Hatayama and K. Tahara, Resources Policy, 55 (2018), 96–102.

     

    【成果】
     金属のサプライチェーン上に存在する93ヶ国のリスクの大きさを、「これまでの障害の発生頻度が高い国ほどリスクが大きい」という経験的分析によって指標化しました。そのためには、過去の供給障害に関するイベントデータが必要となります。本研究では、手作業あるいはデータマイニングによるニュース記事の調査、既存の災害データベースの利用という3つの異なるアプローチによってニュース記事等から50,000件以上のイベントデータを取得し、国別の発生頻度に基づいてリスクを0~10のスコアで算出しました。
     採掘活動が盛んな場所では供給障害も多く記録されているため、アメリカ、カナダやオーストラリアといった先進国を含めた資源国のリスクは高く算定されました。特にオーストラリアでは、自然災害のリスクが高い特徴がみられました。日本は近年採掘活動がほぼ行われていないためリスクは小さいですが、自然災害のリスクはやや大きめに推定されました。

     

    表 主な資源国の供給リスクスコア(自然災害、事故、ストライキ)

    【成果の意義・今後の展開】
     自然災害、事故、ストライキのリスクは先進国でも高く、政治的、経済的なリスクとは異なる地域性が明らかになりました。国別のリスクを定量的に示した本研究の成果は、供給リスク評価にこれらリスク要因を取り入れて発展させるうえで有用と考えられます。今後は様々な金属の供給リスク評価を進めることで、エビデンスベースでの日本のクリティカルマテリアルの特定や資源戦略の検討に役立てていきたいと考えています。

     

    ※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務(JPNP17001)の結果得られたものです。

    2024年01月25日