マイクロプラスチックの沈降速度の解析と河川から海洋への輸送割合のモデル計算
小倉 勇(排出暴露解析グループ)
【背景・経緯】
近年、海洋におけるマイクロプラスチック(MP)汚染が問題となっています。しかし、MPの発生源から海洋への輸送動態については、まだ十分に解明されていません。そこで、粒子の水中での動態を考える上で特に重要なパラメータである沈降速度について、MPに関する文献データを整理し、MPの粒径別・形状別の沈降速度を解析しました。そして、MPの沈降と移流を考慮したボックス型の動態予測モデルにより、東京湾流域の河川に放出されたMPがどの程度東京湾に到達するか、その輸送割合を推定しました。パーソナルケア製品、衣服の繊維、タイヤ摩耗粒子に由来するそれぞれのMPを対象に推定を行いましたが、ここでは、タイヤ摩耗粒子のケースについての結果を紹介します。
【成果】
MPの粒径別・形状別の沈降速度の解析結果を図(左)に示します。沈降速度と粒子径を粒子や水の密度等で基準化して無次元化し、異なる条件の結果を一つのグラフにまとめました。球形のMPの沈降速度は、既往の球形粒子の予測式による値とほぼ一致し、一方、非球形のMPは同一サイズの球形粒子に比べて沈降速度は遅くなる傾向が見られました。
次に、タイヤ摩耗粒子の河川から海洋への輸送割合の推定結果を図(右)に示します。タイヤ摩耗粒子の粒子径は10~100 μm、粒子密度は1.15 g/cm3とし、沈降速度は図(左)の結果を参考に球形粒子の沈降速度の1/3倍を中心に1/9~1倍と仮定しました。また、河川の水深は5 m、発生源から東京湾までの移流時間は2日と仮定しました。モデル計算の結果、MPの輸送割合は、沈降速度の仮定や粒子径によって変化しますが、30 μmのMPでおよそ半分程度と推定されました。
本成果は、Marine Pollution Bulletin誌に掲載された論文の内容の一部です。
Kyoko Ono, Wataru Naito, Isamu Ogura, Mianqiang Xue, Etsuko Kato, Motoki Uesaka, Kiyotaka Tsunemi. Estimation of microplastic emission and transfer into Tokyo Bay, Japan, using material flow analysis. Marine Pollution Bulletin 194, Part B, 2023.
https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2023.115440
Supplementary data
https://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S0025326X23008743-mmc1.pdf
図 MPの粒径別・形状別の沈降速度の解析結果(左)と
河川から海洋へのタイヤ摩耗粒子の輸送割合の推定結果(右)
Ono et al.(2023)のSupplementary dataの図を改変
【成果の意義・今後の展開】
MPの沈降速度に関する研究が近年多く報告されつつありますが、本研究ではそれらを包括的に整理しました。また、それらの沈降速度のデータのばらつきを考慮して、河川から海洋への輸送割合の推定事例を示しました。本成果は、海洋中におけるMPの環境動態や発生源・排出量の解明、MPの削減効果の推定に資するものです。今後の課題として、実験室の静的試験条件下で得られた沈降速度と実環境の沈降速度の違いや、洪水などの非平常時の影響などの考慮が必要と考えています。
※本研究は、日本化学工業協会が推進するLRI(Long-range Research Initiative;化学物質の環境影響および安全性に関する長期自主研究)により支援されました。
2024年01月25日