地球温暖化効果の小さいフッ化炭化水素冷媒の家庭用ルームエアコンからの実規模漏洩拡散挙動
椎名 拡海(爆発利用・産業保安研究グループ)
【背景・経緯】
現在、主に家庭用のエアコン等に使われている冷媒ガスは、オゾン層を破壊しない代替フロンですが、大気に放出された場合の地球温暖化効果が大きいことが知られています。このため、より地球温暖化効果の小さいR32やR1234yfといった冷媒の開発、普及が進んでいますが、それらの冷媒は空気中で微燃性を示すため、エアコンに充填できる量が制限されています。そこで室内の空気を撹拌することで安全に充填量を増やすことが検討されています。本研究では実際の冷媒とエアコン室内機を用いた実規模実験を行って、制限を緩和した充填量の微燃性冷媒が室内に漏洩した場合に生じる濃度分布の挙動を計測することにより、充填量を緩和することの安全性を確認しました。
【成果】
実験は、内寸2.7m×5.4m×高さ2.4mの実スケール模擬室(9畳)を、排気除害設備と耐爆壁の整った屋内大型実験室内に設置して、模擬室内に取り付けたエアコン室内機からR32とR1234yfをそれぞれ放出し、実スケール模擬室内の濃度分布時間履歴を計測して拡散挙動を観測しました。放出量は室内気の撹拌を前提に緩和する検討が現在国際的に行われている計算式を用いて、部屋の広さ等から計算した最大許容充填量を用いました。冷媒の漏洩速度としては、国際的にリスク評価に用いられている4分間で全量が放出される速度の他、より漏洩速度が遅く漏洩口付近で空気との混合希釈が弱まる漏洩速度も採用しました。観測の結果、室内気の撹拌を前提に緩和された充填量で撹拌がなくても、家具等がない9畳の模擬室内では、放出中の室内機直下を除いては、放出中も放出終了後も可燃濃度域の形成は確認されませんでした。(図)また放出終了後の部屋中央床上2 cmでの電気スパークでも火炎伝播は確認されませんでした。
図 冷媒放出中の室内の冷媒濃度時間履歴
左:20分全量放出、右:4分全量放出、LFL(R32):R32の燃焼下限界濃度
【成果の意義・今後の展開】
この研究の成果は、現在普及が進んでいる微燃性冷媒であるR32とR1234yfの家庭用エアコンへの充填量の規制が緩和されても安全性が保たれることを示すものです。また、可燃性冷媒の漏洩拡散事故に対する実規模での安全性評価手法を確立したことで、今後、地球温暖化効果がより小さいが可燃性を持つ冷媒分子や混合冷媒が開発された場合でも、迅速に安全性評価を行うことができます。
※ この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務の結果得られたものです。
2024年01月25日