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  • COPD病態モデルマウスを用いた先端ナノ材料の肺毒性評価
  • COPD病態モデルマウスを用いた先端ナノ材料の肺毒性評価

    藤田克英(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
     セルロースナノファイバー(CNF)やカーボンナノチューブ(CNT)などの先端ナノ材料は、その独自の特性から様々な産業での利用が期待されています。しかし、これらの繊維状ナノ材料はヒトの健康に潜在的な影響を及ぼす可能性があり、特に作業環境での安全な取り扱いが求められています。CNTの吸入暴露が、肺疾患に関連する気道のリモデリングや線維化を引き起こす可能性が示唆されていますが、そのメカニズムは未だ十分に理解されていません。本研究では、CNFと多層CNT(MWCNT)を対象に、たばこ主流煙により誘発した慢性閉塞性肺疾患(COPD)病態モデルマウスに対して気管内投与を行い、28日後の肺毒性を評価しました。

     

    【成果】
     80μgのCNFをマウスの気管内に投与した結果、28日目において病理組織学的変化や気管支肺胞洗浄液(BALF)の組成、サイトカインレベルに有意な変動は観察されませんでした。この結果は、CNFが肺の炎症に対して強い影響を及ぼさないことを示唆し、また、たばこ煙によって誘発された炎症の回復に支障がない可能性があることが示されました。一方で、同量のMWCNTの投与では、28日目において病理組織学的変化、およびBALFで有意な細胞組成の増加、サイトカインレベルの上昇が観察されました。これらの結果から、CNF暴露はMWCNTと比べて肺に対して強い影響を及ぼさず、たばこ煙誘発の炎症の回復を妨げなかった一方で、MWCNT暴露は肺の炎症反応の回復を妨げたことが明らかになりました。本研究成果は、国際学術誌であるToxicology Report(Elsevier)に掲載されました(Fujita et al., 2023)。

     

    Fujita K, Obara S, Maru J, and Endoh S. Effects of advanced nanomaterials on the respiratory system of a murine COPD model. Toxicology Report. 11:481-492 (2023). https://doi.org/10.1016/j.toxrep.2023.11.009

     

     

    図 COPD病態モデルマウスを用いた先端ナノ材料の肺毒性評価

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究の結果から、先端ナノ材料のリスク評価において、健康状態が健常でない個体、特に肺疾患を抱える人なども考慮する必要性が示唆されました。また、先端ナノ材料の開発や利用、そしてこれらを扱う事業者の自主的な安全管理を行う上で、有益な研究手法が提案されたと考えます。なお、本研究結果はCNFやCNTの安全性を保証するものではありません。本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託された研究成果です(JPNP20009)。

    2024年01月25日