反応に不活性な熱分析容器の開発
秋吉 美也子(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
示差走査熱量測定(DSC) で得られる発熱量(発熱分解エネルギー)と化学物質の発火・爆発危険性とには相関性が認められています。DSCは、極めて少量の試料で簡便かつ安全に化学物質の危険性評価を行うのに有効な手段とされていますが、一方で,測定条件の影響を受けることが知られています。熱危険性評価を行う際には、容器としてはステンレス製耐圧容器を使用する場合が多いですが、ステンレスなどの金属と反応する物質を評価する場合、過大評価(あるいは過小評価)となる可能性があります。このため、現在,反応に不活性とされる金メッキ容器やガラス容器などが種々販売されていますが、各々欠点があります。我々は金属容器に不活性物質をコーティングさせた熱分析容器の開発を進めています。
【成果】
DSC測定用耐圧ネジ蓋式ステンレス容器(内蓋ステンレス)に、原子層堆積装置[FlexAl]を用いて、種々の膜厚(7nm~100nm)のシリカ膜を低温プラズマ法にてコーティングさせました。図にはシリカコーティング(100nm)した容器で得られた過塩素酸アンモニウム(分解時に塩酸ガス発生)のDSC曲線を示します(図中NS(lidSS)(100nm))。同図には、未コーティング容器(図中NS(lidSS))、ガラス容器(図中GC)での結果も示しました。発熱量はコーティングにより明らかに低減しますが(3350J/g→1754J/g)、ガラス容器での値(1671J/g)に比べるとやや高くなっています。測定後、容器下部、内蓋ともにやや劣化が認められ、膜厚(100nm)がまだ不十分であることがわかりました。同じ膜厚でも硝酸アンモニウム(分解時に硝酸ガス発生)の熱分解では劣化が認められていません。腐食性ガスの発生する温度域やガス種によって、耐性が変化するのかもしれません。
図 コーティング容器で得られた過塩素酸アンモニウムのDSC曲線
【成果の意義・今後の展開】
ALD法を用いて市販のDSC容器に不活性物質を堆積させ、熱挙動への影響を調べました。現在、ALD法は室温で使用される半導体などに適用されており、加熱する反応容器への適用例はありません。このコーティングが成功すれば、現在市販されている金メッキ容器やガラス容器の欠点を補うことが期待されます。今後、さらに膜厚の影響、腐食性ガスの発生する温度域やガス種の影響を確認します。
2024年03月18日