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  • 水素燃焼の化学発光計測
  • 水素燃焼の化学発光計測

    松木亮 (爆発利用・産業保安研究グループ)

    【背景・経緯】
     水素は燃焼する際に強い可視光を発しないため、火炎を視認し難いと言われています。そのため、水素の燃焼を可視化する際には、燃焼反応で生成するラジカルから生じる紫外の化学発光や、熱輻射による赤外光を利用することが一般的です。しかし実際には、水素の火炎は弱い可視光を発しており、暗所では青く光ることを視認できる場合もあります。その光は連続的なスペクトルを有することから、青い連続帯(blue continuum)と呼ばれます。水素の火炎が青く光ることは古くから観察されていますが、その理由は知られていません。本研究では、水素の高温酸化反応から生じる発光のスペクトルと時間履歴を測定し、青い発光の起源を検討しました。

     

    【成果】
     実験には、均一な高温環境で化学反応を進行させることができる衝撃波管装置[1]を用いました。水素と酸素を含む試料気体に衝撃波を入射し加熱することで水素の高温酸化反応を進行させ、発生した光を検出しました。温度1800 Kで観測された発光スペクトルを時間履歴の形で図に示します。反応開始から約100 μs経過時点で急激に燃焼反応が進行し、紫外領域にはよく知られている励起OHラジカルによる化学発光が現れています。可視光となる400 nm以上の波長では、紫外光に比べると微弱ですが連続的な発光が観測されました。この発光の時間履歴や試料気体の組成に対する依存性を調べると、紫外光とは異なる挙動を示すことが分かりました。水素の燃焼反応機構に基づき発光挙動を解析したところ、輻射性再結合反応と呼ばれるラジカル種同士の反応によって、青い化学発光が生じることが提案されました[2]。

     

    [1] https://riss.aist.go.jp/research/20230323-2512/

    [2] Akira Matsugi, “Exploring the mechanism of blue emission from hydrogen combustion”, Combust. Flame 256 (2023) 112953.

    図 水素の高温酸化反応において観測された発光スペクトルの時間履歴

     

    【成果の意義・今後の展開】
     発光を観測することは、火炎の可視化や燃焼反応の進行を解析するための基礎的な計測技術です。水素燃焼の青い発光は、高圧燃焼において顕著に現れることなど、紫外発光や赤外発光とは異なる挙動を示します。そのため、発光が生じる反応機構を解明することは燃焼計測技術の高度化に繋がります。今後は更なる実験と理論化学解析を行い、発光挙動をより定量的に明らかにすることを目指します。

    2024年03月18日