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  • 植物起源イソプレン由来の反応中間体が東アジアの粒子状物質生成に与える影響
  • 植物起源イソプレン由来の反応中間体が東アジアの粒子状物質生成に与える影響

    秦寛夫(環境暴露モデリンググループ)

    • 星野翔麻(東京理科大学)
    • 藤田道也(東京大学)
    • 戸野倉賢一(東京大学)

    【背景・経緯】
     揮発性有機化合物(VOC)は人体に有害な二次生成大気汚染物質であるオゾンと微小粒子状物質(PM2.5)の前駆体として知られています。植物の代謝過程で生成され排出されるイソプレンは、大気中のVOCの60~90%を占めると言われています。近年、イソプレンの大気酸化過程で生成する反応中間体化合物が、PM2.5の一種であり、かつ粒子核である硫酸エアロゾル(SO42-(p))の生成に大きく寄与する可能性が指摘されはじめました。本研究では、イソプレン由来の反応中間体として知られる2種の化合物「クリーギー中間体(SCI)」と「イソプレンヒドロキシヒドロペルオキシド(ISOPOOH)」の、東アジアにおけるSO42-(p)生成への寄与を評価しました。

     

    【成果】
     本研究では、大気中の化学物質の移流や拡散、化学反応、沈着現象を予測するシミュレータである領域大気質モデルCommunity Multiscale Air Quality model(CMAQ)に、気相中のSCIと液相内のISOPOOHに起因する、近年解明された最新の大気化学反応速度定数を追加することで、東アジアにおけるSCIとISOPOOHによるSO42-(p)生成への寄与率を算出しました。その結果、SCIとISOPOOH共にイソプレン放出量の多い中国南部や東南アジアにおいて最大で1%程度のSO42-(p)生成への寄与が示唆されました。SCIに関してはSO42-(p)の生成促進に付随し、二次有機エアロゾル濃度も最大で3%程度上昇することを初めて明らかにしました。本結果からイソプレン由来の中間体化合物が大気汚染、特にPM2.5に由来する放射強制力の低減やヒト健康リスクに与える影響が無視できないことを示すと同時に、中間体化合物の大気中における複雑な反応機構をモデルに組み込むことの重要性が示唆されました。本研究成果は国際学術誌Atmospheric Environment: Xに掲載されました(Hata et al., 2023)。

    図 イソプレンの大気酸化過程で生成する中間体化合物が大気汚染と環境影響(太陽光の散乱に起因する放射強制力やヒト健康リスクの低減)に関する概略

    Hata, H.; Hoshino, S.; Fujita, M.; Tonokura, K. Atmospheric impact of isoprene-derived Criegee intermediates and isoprene hydroxy hydroperoxide on sulfate aerosol formation in the Asian region. Atmos. Environ.: X 20 (2023) 100226.

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本研究では植物起源イソプレンの大気酸化過程で生成する2種の反応中間体が、大気中のPM2.5濃度の増加に寄与することを示しました。気候変動予測に不可欠な全球気候モデル等では、反応中間体に起因する化学反応が考慮されておらず、特に地域的な気候予測精度が低いことの一要因とされています。本成果は大気汚染のみならず、気候変動予測の精度向上の基礎的知見になることが期待されます。本研究はJSPS科研費JP21K12286の助成を受けたものです。

    2024年03月18日