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  • 地域の2050年までの温暖化対策の中期ロードマップ分析評価
  • 地域の2050年までの温暖化対策の中期ロードマップ分析評価

    歌川 学(持続可能システム評価研究グループ)

    【背景・経緯】
     気候変動の悪影響抑制のため、脱炭素転換が求められています。IPCC第6次評価報告書統合報告書は、気温上昇1.5度未満抑制(工業化前比)の世界のCO2削減として、2030年に2019年比48%削減、2035年に60%削減、2050年頃に排出実質ゼロを示しました。
     日本では、国で2030年目標として2013年比46%削減、2050年排出実質ゼロ目標が制定されました。2050年排出実質ゼロは46都道府県が宣言、市区町村も1000以上が宣言しました。2030年目標、2050年目標、そのための実行計画区域施策編について、都道府県で目標強化が進みつつあり、市区町村では制度上は計画義務がなくても2030年、2050年目標をたて、計画を策定するところが増え、これは対策強化の第一歩です。

     

    【成果】
     目標強化も含め、シナリオ検討を行い、目標達成のための対策を合理的に選択し実行することが必要で、地域のCO2排出実態把握をもとに、代表的な対策を実施した際の最終エネルギー消費、CO2排出量の推移の定量評価が必要です。
     前回の排出量実態把握推計手法の成果(※)をふまえ、市区町村ごとに排出実態推計を行い、代表的な対策と更新時期などの導入タイミング、リードタイムを想定した具体的な技術導入の2050年までのロードマップを定量評価しました。対策のない場合の推計に使う人口将来推計については、人口ビジョンを定める自治体については人口ビジョンを用いました。
     既存の省エネ・再エネ対策技術と、普及間近の改良技術の計画的な普及により、素材製造業の立地する大規模な工業地域を有する一部自治体以外は、2030年に50%以上、多くは60%以上の削減(2013年比)、2050年に100%近い削減の可能性が明らかになりました。普及を進める際には同時に地域で専門的知見を普及していくことも有効と考えられます。

    ※ 歌川「地域の省エネ・温暖化対策評価と地域の排出量把握」
    (https://riss.aist.go.jp/research/20221209-2422/)

    図 導入タイミングを踏まえた対策技術普及予測による西日本の市町村の2050年までのエネルギー起源CO2排出削減

    歌川学・中村将大「高知県黒潮町・日高村の地球温暖化対策実行計画策定と,地球温暖化防止活動推進センターと研究者の中間支援について」日本環境学会報告
    歌川学「全国・地域の脱炭素社会への転換と地域発展」、成城大学紀要
    重藤さわ子・歌川学・堀尾正靱「「地方創生ゼロカーボン」達成に向けた政策上の課題、先進事例自治体調査結果を踏まえて」、環境経済政策学会報告
    近江貴治・歌川学「地域CO2排出量算定法の開発」経済地理学会西南支部報告

     

    【成果の意義・今後の展開】
     今回の成果は地域の脱炭素対策強化評価の有効な手法です。機器・建築・車などの更新時の既存技術等の普及による効率改善により、日々の省エネ行動等に依存せず、多くの市町村目標より大きな削減が可能なことも示唆されます。これによって地域の排出実態およびそれを踏まえた有効な対策にあった2050年までの対策ロードマップ、計画策定、対策強化のシナリオ別の評価がより容易可能になります。
     今後は多様な地域の脱炭素転換にむけた対策技術導入評価分析を予定しています。

     

    ※ 本研究は、科学研究費補助金基盤研究A「システム改革下における地域分散型のエネルギーシステムへの移行戦略に関する研究」、科学研究費補助金基盤研究C「太陽光・風力発電の大量連系と電力需給バランスを考慮したCO2削減効果の推計」により実施しました。

    2024年04月10日