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  • マテリアルフロー解析を用いた東京湾へのマイクロプラスチック負荷量推定
  • マテリアルフロー解析を用いた東京湾へのマイクロプラスチック負荷量推定

    小野恭子(社会とLCA研究グループ)

    • 内藤航(リスク評価戦略グループ)
    • 小倉勇(排出暴露解析グループ)
    • 薛面強(社会とLCA研究グループ)
    • 加藤悦子(社会とLCA研究グループ)
    • 上坂元紀(リスク評価戦略グループ)
    • 恒見清孝(安全科学研究部門付き)

    【背景・経緯】
     マイクロプラスチック(MP)は、海洋生態系に対する影響が懸念されていることから、リスク評価により、対策が必要な場や発生源を特定することが必要です。現在広く行われている環境中MPの実測では、300 µmを下回る粒子径のMPは通常捕捉されないことからマスバランスを論じることが難しく、また、実測で得られるMPのプラスチック樹脂や形状の情報のみでは発生源を特定することが通常困難であることから、発生源ごとのリスク評価やリスク削減対策の提案につながる別のアプローチが求められていました。本研究では、マテリアルフロー解析を用いてMPの発生源ごとに環境排出量を見積もる手法を開発し、水域への現実的な負荷量を推定しました。

     

    【成果】
     ここでは対象地域を日本の東京湾流域とし、流域内における排出量および東京湾への負荷量を推定しました。発生源はパーソナルケア製品含有MP(2015年まで)、洗濯由来摩耗合成繊維MP(繊維MP)、タイヤ摩耗由来粒子を対象とし、発生源ごとに、生産量や摩耗率、下水道普及率、下水処理場でのMP除去率や下水汚泥の再利用率を考慮し、水系における水の分岐と合流も考慮することで、流域内の排出量とフローをモデル化しました。これらのパラメータは統計情報や既往研究から得、不確実性が大きいものはモンテカルロ・シミュレーションによる感度解析を行い、不確実性幅を求めました。この結果、たとえば繊維MPの排出量については38±22トン/年と計算されました(図)。河川での粒子の沈降、移流拡散などの挙動を考慮するため、発生源ごとに、特徴的な粒径や比重を設定し、湾への流達時間を考慮することで東京湾への負荷量を算出しました。
     この成果は、Marine Pollution Bulletin誌に論文として公開しました。

     

    Kyoko Ono, Wataru Naito, Isamu Ogura, Mianqiang Xue, Etsuko Kato, Motoki Uesaka and Kiyotaka Tsunemi (2023). Estimation of microplastic emission and transfer into Tokyo Bay, Japan, using material flow analysis. Marine Pollution Bulletin 194 115440
    https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2023.115440

     

    図 東京湾に流入する繊維MPについて、マテリアルフロー解析により推定した排出量(単位:トン/年)

     

    【成果の意義・今後の展開】
    本研究は、特定の流域内のMP排出量をモデル化する手法を示したものであり、他のMP発生源にも応用可能です。また、得られたMPの負荷量を環境暴露モデルの入力値とすることで環境中濃度分布を発生源ごとに得られる可能性があることから、MPの樹脂の種類、サイズに加えて環境中ホットスポットといった場の情報を特定したリスク評価ができ、発生源ごとのリスク削減対策の提案につながることが期待されます。

     

    ※ 本研究は、日本化学工業協会が推進するLRI(Long-range Research Initiative;化学物質の環境影響および安全性に関する長期自主研究)により支援されました。

    2024年07月17日