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  • 薬剤組合せの効率的・網羅的探索を可能とする最適化問題を定式化
  • 薬剤組合せの効率的・網羅的探索を可能とする最適化問題を定式化

    竹下潤一(環境暴露モデリンググループ)

    • 濱野桃子(九州工業大学大学院情報工学研究院)
    • 山西芳裕(名古屋大学大学院情報学研究科)

    【背景・経緯】
     これまで、治療効果を高めるなど所望の性質を有する薬剤組合せは、実験的な方法で発見されてきていました。しかし近年、医薬品等に関する様々レベルのビッグデータが蓄積・公開されているため、それらデータを活用し、有用な薬剤組合せを網羅的に探索したいという需要が増えています。一方で、薬剤組合せを網羅的に探索し、有望な薬剤組合せを発見しようとすると、2n回程度(nは探索する薬物数)の計算を行う必要が出てきてしまい、非現実的であるという問題が生じます。そこで、現実的な時間で効率的に、かつ網羅的に薬剤組合せを探索することを可能にするべく、薬剤組合せの探索問題を数理科学分野の「0-1整数計画問題」として定式化し求解するアプローチを提案しました。

     

    【成果】
     まず、探索範囲の薬物を1,…,Nと番号付けします。i番目の薬物を組合せに用いる場合に1を、用いない場合に0をとる0-1変数xiを設定するとともに、x1からxNの値が決まる(用いる薬剤組合せが決定する)と、その組合せに応じて所望の性質の評価値を返す関数fを定義することで、薬剤組合せの探索問題を「0-1整数計画問題」として定式化しました。次に、数学的最適解が必ずしも生物学的に最適とは限らないことから、最適解に近いと思われる複数の組合せ候補を出力可能な経験的手法の1つである「アニーリング法(図)」と呼ばれる、物理現象の焼きなましを模倣した手法を応用することで、求解アルゴリズムを構築しました。この方法論を再生医療分野で注目されているダイレクトリプログラミング(分化細胞からiPS細胞を経ずに別の特異的な分化細胞に変換する方法)を誘導する低分子化合物群の探索に適用しました。その結果、文献で報告されている薬剤組合せと同等の性質を有する可能性が高い低分子化合物の組合せを複数得ることができました(※)。

     

    ※ 九州工業大学プレスリリース「細胞の直接変換を誘導する低分子化合物の組み合わせを予測するAIを開発 —生体ビッグデータと最適化アルゴリズムを活用した再生医療の開拓—」

    (https://www.kyutech.ac.jp/whats-new/press/entry-9372.html)

    ※ 名古屋大学プレスリリース「細胞種を直接変換させる低分子化合物を予測できる機械学習アルゴリズムを開発 ~転写因子を模倣する、より低リスクな化合物の探索~」

    (https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/02/post-624.html)

    図 アニーリング法の基本的な考え方

     

    【成果の意義・今後の展開】
     薬剤組合せの探索問題を数学的に定式化し求解するアプローチを提案したことで、ダイレクトリプログラミングを誘導する薬剤組合せ候補に限らず、ある疾患に対する多剤併用療法に有効な薬剤組合せ候補を探索するなど、様々な薬剤組合せ候補の探索に応用可能です。そのため今後は、医薬学の専門家とも連携し、提案手法を元に発見できた薬剤組合せについて、実験的・臨床的に検証を行い、実用化までつなげていきたいと考えています。

    2024年07月17日