水滴散布による爆風低減可能性
杉山勇太(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
火薬類の爆発によって発生する爆風は周囲に深刻な被害を及ぼす可能性があるため、爆発影響低減化技術の開発を行なっています。爆風の強さは爆発で放出されたエネルギーに依存するため、爆薬近傍に設置した緩衝材によってエネルギーを吸収させることで爆発影響低減が可能です(1)。そこで爆薬周囲に水滴を散布した場合の爆風低減効果を検討しました。水滴1個の表面積や重量は小さいのですが、水滴群となることで図(a)のように爆風背後の高温・高速ガスと干渉した際の分裂、熱伝達、抗力、蒸発によってエネルギーが吸収され、爆風低減が達成されると考えられます。そこで本研究では水滴散布量と爆風低減効果の関係を数値解析によって評価しました。
【成果】
図(b)に計算対象を示します。実験室規模の球形爆薬8 g(半径0.011 m)の周囲に直径1.5 mmの水滴群を散布し、水滴群半径を変化させました。図(c)は水滴なし条件を基準とした際の、水滴群半径を変えた場合の爆風圧分布を示しており、基準線(黒線)から下側に遠ざかるほど爆風低減効果が向上します。水滴層半径0.4 mまでは、その増大に従って爆風圧低減効果が向上する一方で、0.8 mでは0.4 mの爆風圧分布とほぼ重なっており、爆風低減効果が頭打ちとなりました。水滴と爆風の干渉の様子を検討した結果、水滴によるエネルギー吸収機構として図(a)の熱伝熱と抗力が重要であることがわかりました。また爆発によって生じた高温ガスは最大0.25 m程度までしか広がらないため、それよりも外側に散布した水滴群は高温ガスと接触せずほとんど熱伝熱が生じませんでした。効率的な水滴散布範囲を考える際には、爆発後の高温ガスの挙動にも注目する必要があることがわかりました。
図 水滴を散布した場合の爆風低減効果の検証
【成果の意義・今後の展開】
水滴群による爆風低減機構の解明、水滴群と干渉する爆風の伝播挙動を検討した成果をまとめ、Physics of Fluids(2)で発表しました。今回は実験室規模の爆薬8 gを対象としましたが、水滴群を用いた爆風低減技術を実用化するためには、薬量を実規模(数十トン)まで検討する必要があります。広範な薬量に対する水滴の諸量(直径、散布範囲、総重量)と爆風低減効果の関係を把握するため、引き続き様々な条件での検証や理論解析を進めていきたいと思います。
参考文献
- Sugiyama et al., Journal of Fluid Mechanics 938 (2022), A32.
- Sugiyama et al., Physics of Fluids 34 (2022), 076104.
2024年07月17日