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  • 日本全国の河川における水質測定地点の物理化学的特徴と水生生物相の状態を把握する
  • 日本全国の河川における水質測定地点の物理化学的特徴と水生生物相の状態を把握する

    岩崎雄一(リスク評価戦略グループ)

    【背景・経緯】
     都市域を流れる河川などは、水質汚染、土地利用の変化、河道内の物理的な改変など、すでに複合的に人為的な影響を受けています。そのため、そこに生息する水生生物を効果的に保全するためには、これら複合的な要因の影響を考慮した上で、有効な対策を検討する必要があります。しかし、水生生物の保全を目的とした水質環境基準や排水基準の設定が検討される際には、水質環境基準の全国での超過状況が判断材料として利用されるのみで、超過が全国的にどのような特徴の地点で起こっているか、という点は考察されません。そこで、本研究では、水生生物の保全効果を考察する上で有用な情報として、全国の水質測定地点の物理化学的特徴や水生生物相の状態を整備・推定することを目的としました。

     

    【成果】
     全国の河川の水質測定地点(環境基準点)2925箇所を対象として、まず、標高、集水域面積(河川規模の指標)、集水域及び周囲の土地利用割合、有機汚濁の指標である生物化学的酸素要求量(BOD)等の水質項目といった物理化学的特徴を整備しました。次に、これらの特徴に基づき、水質測定地点を、森林が集水域で卓越し水質が良好な地点群(グループ1)、田畑あるいは都市の土地利用が集水域で卓越し水質悪化が懸念される地点群(それぞれグループ3、4)、これらの中間的な特徴の地点群(グループ2)、の4つに分類しました(図左:岩崎ら 2022)。さらに、河川底生動物の生息状況に基づく平均スコア(“河川環境の良好性”の指標、※注1)を、整備した物理化学的特徴から推定するモデルを構築しました(図右:Iwasaki et al. 2024)。これらの成果により、任意の水質測定地点の特徴を比較的容易に把握できる情報を整備することができました。関連データは各公表論文に記載されたウェブサイトから入手可能です。

    図 水質測定地点(環境基準点)の物理化学的特徴(左)および底生動物の平均スコア(右)に基づく地点のグルーピング。グループ1~4の説明は本文参照。

     

    【成果の意義・今後の展開】
     本成果は、弊部門のニュースレターに掲載された拙稿(参考文献参照)での問題提起に対する回答であり、整備した水質測定地点の物理化学的特徴および底生動物の平均スコアに基づく生物学的特徴が水質環境基準や排水基準等の設定時に今後活用されることを期待したいと思います。また、水質指標として認識される平均スコアが底生動物の種数や個体数とよく相関すること(平均スコアがこれらの指標としても機能する可能性があること)を示せた点も意義があったと感じています。

     

     

    ※ 本研究は、JSPS 科研費18H04141、20K12213、21J01394、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20225005)の支援を受けて実施された。

     

    ※注1
    平均スコアは、河川の大型無脊椎動物(底生動物)71分類群(主に科レベル)の出現状況に基づいて計算される指標で、各地点で採集された科のスコアの総和を採集された科数で割って計算されます。環境省(2017)では“河川環境の良好性”の指標とされていますが、元々、各科のスコアが水質汚染(特に有機汚濁)に対する耐性の程度を参照して決定されたため、経験上、水質の指標と認識されている方が少なくないと感じています。

     

    参考文献
    岩崎雄一(2020)水生生物保全を目的として化学物質個別に全国一律の排水規制を実施する意味を問い直したい.安全科学研究部門ニュースレター Safety & Sustainability No.37 2020 https://riss.aist.go.jp/newsletter/20210706-631/

    岩崎雄一、小林勇太、末森智美、竹下和貴、梁政寛(2022)日本全国の河川における水質測定地点 (環境基準点) の物理化学的特徴の整備とそれに基づくグルーピング.水環境学会誌, 45: 231-237 https://doi.org/10.2965/jswe.45.231

    Iwasaki Y, Suemori T, Kobayashi Y (2024) Predicting macroinvertebrate average score per taxon (ASPT) at water quality monitoring sites in Japanese rivers. Environmental Science and Pollution Research, 31: 28538-28548 https://doi.org/10.1007/s11356-024-33053-y

    環境省(2017)水生生物による水質評価法マニュアル-日本版平均スコア法-. 環境省 水・大気環境局 https://www.env.go.jp/content/900543703.pdf

    2024年07月17日