再生プラスチック製品中に含まれる可能性のある化学物質の健康リスクの評価
小島 直也(社会とLCA研究グループ)
【背景・経緯】
循環経済(※1)の観点から、これまで以上に再生プラスチックに注目が集まっています。その利用拡大や価値向上のために、これまで新品のプラスチック原料が使われていた製品を、再生プラスチックに代替することが検討されています。一方で、再生プラスチック製品中には製造者の意図しない添加物や未知物質(以下、非意図的物質)が含まれる場合があり、これらがどのような健康リスクをもたらすか十分に評価できていないことが課題とされています。
本研究では、ポリプロピレン製の再生プラスチック製品として、自動車窓開閉用のボタンパネルを取り上げ、非意図的物質がもたらす健康リスクを評価しました。
※1:あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、付加価値の最大化を目指す社会経済システム
【成果】
RoHS指令(※2)対象物質であるフタル酸ジ-n-ブチルとフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)について、再生ポリプロピレン中からの検出事例を調査し、報告された検出濃度の最大値が製品に含まれると仮定して、安全側のリスク評価を実施しました。
産総研室内製品暴露評価ツール(AIST-ICET)を利用して、自動車を平日に60分運転すると仮定して、3つの経路別の暴露量を推計しました。
1.吸入:車内に移行した物質を吸い込む
2.経口:車内ダストに吸着した物質を飲み込む
3.経皮:ボタンパネルに直接触り経皮で取り込む
推計した暴露量を一日許容摂取量(※3)と比較した結果(図)、2物質とも全ての経路で許容摂取量を超過せず、今回想定した範囲においては健康影響の懸念がないと評価されました。
※2:EUの官報に告示された、電気・電子機器についての化学物質規制
※3:ある物質をヒトが生涯毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量。今回は日米欧で指針として採用される値のうち、最も厳しいEUの値を評価に用いた。
図 評価対象製品のイメージおよび暴露量推計結果と一日許容摂取量との比較結果
【成果の意義・今後の展開】
再生プラスチック中にどのような健康懸念物質が含まれうるか、また含まれている場合にどの程度の量が含まれるかといった情報が限られている中、得られる情報を最大限活用することで、健康リスク評価のケーススタディを実施しました。
今後は異なる製品・用途を想定した評価を実施・蓄積していくことを通じて、再生プラスチックの製造者自身が製品の健康リスクを評価するための手順を成果としてとりまとめる予定です。
※ この成果は環境科学会2024年会で下記演題として発表した内容に基づきます。
小島直也、篠原直秀、小栗朋子、小倉勇、小野恭子、梶原秀夫、中村圭介、山﨑絵理子、羽成修康、蒲生昌志(2024)再生プラスチックの健康リスク評価:再生プラスチック製品からの可塑剤のケーススタディ、環境科学会2024年会(2024年9月9日~10日、東京大学本郷キャンパス)、P-69.
※ 本研究の一部は、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」(研究推進法人:独立行政法人環境再生保全機構)(JPJ012290)により実施しました。
2024年10月10日