月面掘削を目的とした発破飛散物の低減に関する調査研究
丹波高裕(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
米国を中心としたアルテミス計画において、月面に居住モジュールや発電所、ロケット燃料工場を建設し、人類が持続的な活動を行うことが計画されています。そのためには本格的な掘削工事が必要となりますが、地球上の約1/6という月面の低重力環境下では反力に抗して踏ん張れないため、重機を用いた作業には困難が予想されます。そこで、掘削工事に火薬を利用することが選択肢に上がります。火薬は、真空中でも起爆でき、爆発したガスの慣性力が砂や岩盤に作用するため作業者が反力に耐える必要がなく、小質量で大効果が得られるため、宇宙空間での利用に適しています。一方、真空・低重力下では飛散物の危険性がより高まるため、飛散物の発生を抑える技術が必要となります。
【成果】
月面での火薬使用に伴う飛散物の影響評価は、月表面での偶発的な事故を想定した研究があるものの、掘削工事で発生する大量の飛散物に関する先行研究はありませんでした。そこで本研究では、岩盤を模したモルタル試験体をペンスリット爆薬0.3 gで破砕し、掘削量や飛散物を評価する小規模実験を実施しました。図に爆発によって生じた飛散物を撮影した高速度カメラ画像とクレーターの写真を示します。画像から得られた飛散物の初速は463 m/sであり、月面環境では高度57 kmまで到達する非常に危険な飛散物と考えられます。飛散物を抑制するため、火薬を密閉する込め物を高強度の素材に変更すると、飛散物の初速は127m/sとなり、予想到達高度は5 kmとなりました。また、モルタル試験体の表面を補強したところ、飛散物を小さくできることが明らかになりました。これらの結果から、込め物や表面補強を適切に施すことで、飛散物を制御できる可能性があります。
図 爆発で生じた飛散物(左)とクレーター(右)
【成果の意義・今後の展開】
真空・低重力の月面では飛散物が遠方まで到達すること、与圧された宇宙機や宇宙飛行士が近隣や軌道上に存在すること等から、月面での火薬利用にとって爆発で発生する飛散物を抑制・制御することは特に重要です。本研究で開発する技術は、宇宙空間での建設作業や資源採掘における火薬利用を助けるもので、今後の宇宙開発に大きく貢献するものと考えています。今後は、飛散物の速度や大きさを制御できるような条件を見出す実験を継続していきます。
2024年10月10日