ポストリチウムイオン電池の環境影響・供給リスク評価とパフォーマンス改善に向けたホットスポット分析
横井崚佑(持続可能システム評価研究グループ)
【背景・経緯】
脱炭素化に向けて二次電池は最も重要な技術の一つとされ、現在ではリチウムイオン電池 (LIB) が市場の多くを占める主要な電池となっています。しかしLIBには製造に伴う環境影響や希少金属をはじめとする原材料の供給リスク、安全性などが懸念されており、これからの電気自動車や再エネの大規模な普及に向けては、既存のLIBの改良を進めるとともにポストリチウムイオン電池の開発が望まれます。低環境影響・供給リスクを達成する電池の開発のためには、技術開発段階から電池の製造に伴う環境負荷やその原材料の供給リスクを事前に評価し、パフォーマンスの改善(環境影響・供給リスクの低減)に向けて特に重要となるポイント (ホットスポット) を特定することが有効ですが、特にポストLIBに関してはそのような評価は対象が限定的であり不十分でした。
【成果】
そこで本研究では、製品の環境影響を評価するライフサイクルアセスメントと資源の供給リスクを評価するクリティカリティ評価を用いて、3種類のLIBとポストLIBとしての2種類のナトリウムイオン電池 (SIB) と1種類のカリウムイオン電池 (PIB) を対象として、製造に伴う環境影響と原材料の供給リスクを評価しました (図)。その結果、6種類の対象電池の中でカリウムイオン電池であるKFSFの製造に伴う環境影響がもっとも小さい値を示し、LIBと比べて全てのポストLIBが低い供給リスクを示しました。さらにホットスポット分析から、環境影響に対して大きな寄与を示した要素として、NMMTとNMCでは正極製造に用いられる硫酸ニッケル生産が、NTOとLTOでは負極製造に用いられる酸化チタン生産が特定されました。供給リスクに関しては、NTO、NMC、LFP、LTOにおいてリチウムによる寄与がもっとも大きい一方で、KFSFではグラファイトが供給リスクに寄与する主要な原材料として特定されました。
※ 本研究成果は下記論文で公開されています。
Yokoi et al. (2024) Resour. Conserv. Recycl. 204, 107526.
https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2024.107526
※ 本文内の一部の略語については図の注を参照
図 容量1kWhの評価対象電池の製造に伴う環境影響および原材料の供給リスク (どちららも無次元量)
ナトリウムイオン電池: NMMT: Na1.1(Ni0.3Mn0.5Mg0.05Ti0.05)O2-Hard carbon SIB, NTO: Na2Fe2(SO4)3-Na3LiTi5O12 SIB
カリウムイオン電池: KFSF: KFeSO4F-Graphite PIB
リチウムイオン電池: NMC: LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2-Graphite LIB, LFP: LiFePO4-Graphite LIB, LTO: LiFePO4-Li4Ti5O12 LIB
【成果の意義・今後の展開】
本成果は、技術開発段階にあるポストリチウムイオン電池も含めて二次電池の環境影響と供給リスクを詳細に評価し、効率的にパフォーマンスを改善するために着目すべきホットスポットを特定した研究で、得られた知見を技術開発に反映することで効果的な技術開発への貢献が期待されます。今後の展開としては、今回の研究では考慮に入れられなかった電池の使用段階やリサイクルを含む使用後の処理段階を含めた評価を考えています。
※ 本研究の一部は、JSPS科研費 23K28261の助成を受けたものです。
2024年10月10日