高エネルギー物質の爆轟生成ガスの状態方程式に関する研究
久保田 士郎(爆発安全研究グループ)
【背景・経緯】
火薬類に代表される高エネルギー物質は、鉱山採掘やトンネル発破のみならず、材料開発や宇宙開発などに広く使用されます。外部衝撃等で、エネルギーを瞬時に解放する性質を持ち、瞬間的に高温高圧状態を達成する激しい燃焼形態、いわゆる、爆轟を呈します。その熱力学的状態は、物質毎に一意になるものの、現象が高速かつ高温高圧であるため、状態を特定することは容易ではありません。我が国では唯一、Kihara-Hikita-Tanaka(KHT)状態方程式が1995年に汎用コード化されましたが、2009年の更新からは進んでいません。研究を継続、進化させる必要があり、理論的アプローチと爆轟特性計算のアルゴリズムの理解から始め、研究とコード化に取り組んでいます。
【成果】
爆轟生成ガスの状態方程式を求める手法は実験的なものと、高エネルギー物質の組成を考慮して理論的に状態式を構成するアプローチがあり、1960年頃から関係する研究概要を著書にまとめました(1)。ここでは後者が研究対象であり、爆轟生成ガスをH2O,CO2,CO・・・など多くの化学種の混合ガスと考えます。代表的なものは混合ガスがビリアル展開型の状態式で表せると仮定して、ビリアル係数と分子間力などのミクロな情報とを関連付けて構成します。その際、経験的なパラメータが残るため、正確には半経験的アプローチです。KHT状態式はLennard-Jonesの分子間ポテンシャルのうち、高温では分子間引力が無視できるとして斥力項のみが考慮されています。さらに炭素などの固体残差も考慮します。化学平衡条件も満足せねばならず、複雑なアルゴリズムになります(図)。状態方程式の構成手法とアルゴリズムについては2023年度衝撃波シンポジウム(2)にて発表し、さらに、固体残差を考慮しない場合について、経験的なパラメータに関する検討結果をISEM2024で発表しました(3)。
(1) Shiro Kubota (ed) (2023) Detonation Phenomena of Condensed Explosives, Springer, Singapore
(2) 久保田士郎, 永山邦仁 (2024) 「爆轟生成ガスの状態方程式コード開発について」,2023年度衝撃波シンポジウム
(3) Shiro Kubota, Tomoharu Matsumura, Yuta Sugiyama, Takahiro Tamba, Ken Okada and Kunihito Nagayama (2024), Investigation of semi-empirical equation of state for detonation products,The 8th International symposium on Energetic Materials and their Application,November, 2024, Hitotsubashi Hall
図 爆轟生成ガスの衝撃圧縮状態を求めるアルゴリズム
【成果の意義・今後の展開】
本研究では、爆轟ガス成分のみを考慮し、KHTコードのデータベースを再利用してコード開発を行い、爆轟生成ガスの状態方程式の研究継続が可能であることを示しました。さらに経験パラメータの影響の検討では、コード開発と共に状態方程式の高度化も可能と認識できたことに大きな意義があります。爆轟生成ガスの状態方程式は、高エネルギー物質の様々な爆轟関連現象を正確に模擬するシミュレーションに不可欠であり、今後も爆発安全研究の重要課題として取り組みます。
2024年12月24日