ミジンコの生物応答試験による金属を含む河川水の生態影響評価と影響原因金属の探索
眞野 浩行(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
金属に汚染されている河川では、河川水中の金属による生態影響が懸念されます。実河川で金属の生態リスク評価を実施する上で、河川に生息する野外の生物個体群や群集への影響を評価することは重要です。しかし、河川水中に含まれる金属は複数存在しているため、河川水中に存在する金属の中から生態影響に大きく寄与する金属を把握することも重要です。これらを実施するための有効な手法の1つとして、生物応答試験の結果に基づいた水質評価による生態影響の評価や生態影響の原因となる金属を特定する手法がありますが、国内の金属に汚染されている河川に適用した研究事例は限られています。
【成果】
本研究では、休廃止鉱山が存在する国内の4流域を対象に、清浄な河川と休廃止鉱山の廃水又はその処理水が流入する河川から選定した計24地点で河川水を採取しました。河川水試料に暴露したオオミジンコ(Daphnia magna)の遊泳行動とニセネコゼミジンコ(Ceriodaphnia dubia)の繁殖の応答を実験室で試験するとともに、遊泳行動の阻害を引き起こした河川水試料を対象に遊泳阻害を引き起こす主要金属を探索しました(下図)。2種類の生物応答試験に基づいた水質評価によって、いくつかの河川水試料では遊泳行動と繁殖に悪影響が観察され、採取した地点での野外の生物個体群や群集への潜在的な生態影響が示唆されました。また、遊泳行動の阻害が観察された水試料では、亜鉛と銅が遊泳行動に大きく影響することが示唆されました。これらの成果は、Water Supply誌で公表されており(Mano et al. 2022)、また、生物応答試験結果と底生動物群集を対象とした野外影響レベルとの関係性の研究をIwasaki et al. 2023で報告しています(※)。
※ https://riss.aist.go.jp/research/20230802-2640/
図 本研究の概要
【成果の意義・今後の展開】
これらの結果は、ミジンコを用いた試験による水質評価の結果に基づいて、河川水中の金属の潜在的な生態影響やその原因を推察できることを示唆しており、試験結果は、野外環境での金属の生態影響をよりよく理解し、評価するのに役立ちます。今後は、金属だけでなく、他の化学物質も対象として、水生生物を用いた生物応答試験に基づいた水質評価から実環境の生態影響を評価する研究に取り組みます。
【引用文献】
Hiroyuki Mano*, Yuichi Iwasaki, Naohide Shinohara (2022) Effect-based water quality assessment of rivers receiving discharges from legacy mines by using acute and chronic bioassays with two cladoceran species. Water Supply. 22(4): 3603–3616. https://doi.org/10.2166/ws.2022.003
Yuichi Iwasaki*, Hiroyuki Mano, Naohide Shinohara (2023) Linking levels of trace-metal concentrations and ambient toxicity to cladocerans to levels of effects on macroinvertebrate communities. Environmental Advances. 11:100348. https://doi.org/10.1016/j.envadv.2023.100348
※ 本研究の一部は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20185R01、JPMEERF20225005)に支援された。
2024年12月24日