微細炭素繊維の細胞影響評価
森山章弘(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
炭素繊維とその複合材料は、軽量、高強度、耐腐食性といった特性を持ち、自動車、航空、エネルギー、医療工学などの多様な産業分野での活用が期待されています。その安全性に関しては、多くの炭素繊維は直径5~10 µm程度であり、呼吸により吸入されにくいため、これまで比較的安全であるとされてきました。しかし、今後のリサイクルや廃棄が進む中で、より微細な炭素繊維粉塵が発生する可能性が懸念されます。そこで本研究では、微細な炭素繊維の生体影響を評価するために、ボールミルを用いて炭素繊維を粉砕し、ラット肺胞マクロファージを用いて細胞内への炭素繊維の取り込みや細胞活性への影響を調査しました。
【成果】
粉砕し得られた直径数百nmほどの微細な炭素繊維に対して超音波処理を行い細胞培地へ分散しました。その後、ラット肺胞マクロファージへ曝露し24時間後の細胞影響を調査しました。その結果、微細な炭素繊維は、同じ炭素系のナノ材料である多層カーボンナノチューブやカーボンブラック粒子と同様に、細胞内へ取り込まれることが明らかになりました。また、マクロファージ活性化の指標である一酸化窒素産生を増加させましたが、酸化ストレスの指標である活性酸素種産生や炎症関連の遺伝子発現への影響は、比較的小さいことが分かりました。このことから、微細な炭素繊維は細胞内へ取り込まれ一定の細胞応答を引き起こすものの、その影響は限定的であると考えられます。本研究成果は、学術誌であるJournal of Material Cycles and Waste Managementに掲載されました(Moriyama et al., 2024)。
Moriyama, A., Iwahashi, H. & Fujita, K. Assessing cellular responses to milled recycled carbon fiber in alveolar macrophages. J Mater Cycles Waste Manag 26, 2128–2137 (2024). https://doi.org/10.1007/s10163-024-01950-6
図 微細炭素繊維の細胞影響評価
【成果の意義・今後の展開】
本研究では、微細な炭素繊維の細胞影響を評価しましたが、今後、これらの応答が限定的である理由や、遺伝毒性などその他の影響についてはさらに詳細な研究が必要です。またここでは、主にサイズに着目しましたが、炭素繊維の切断や劣化に伴う形状変化が細胞に与える影響についても検討する必要があると考えます。なお、本研究結果は炭素繊維の安全性について保証するものではありません。本研究はJSPS科研費JP20J11212の助成を受けたものです。
2025年01月31日