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  • 電気自動車の導入によるヒートアイランド緩和効果の試算と大気中二次生成物質濃度への影響の評価
  • 電気自動車の導入によるヒートアイランド緩和効果の試算と大気中二次生成物質濃度への影響の評価

    秦寛夫(環境暴露モデリンググループ)

    • 水嶋教文(省エネルギー研究部門)
    • 井原智彦(東京大学大学院)

    【背景・経緯】
     気候変動・大気汚染問題の解決に向け、電気自動車(BEV)の導入は世界的なトレンドです。BEVを導入することにより、排ガスに含まれる二酸化炭素や一酸化炭素、窒素酸化物、揮発性有機化合物等の削減が可能となりますが、排ガスの減少により人工排熱も同時に削減されることが予想されます。人工排熱は都市のヒートアイランド現象の原因であり、その緩和に伴い都市の気温が低下することが期待されます。本研究では、関東におけるBEVの導入による人工排熱削減量とヒートアイランド緩和効果の試算、およびそれらによりもたらされる対流圏オゾン(O3)と微小粒子状物質(PM2.5)の地表面濃度への影響を評価しました。

     

    【成果】
     BEVの導入に伴う排ガスの減少量や燃料の総発熱量等の実験データ、国内の自動車の年間平均走行距離等の統計情報から、排ガスの削減による人工排熱量の減少量を試算しました。それらのデータを入力とし領域気象モデルに組み込むことで、BEV導入に伴う関東の気温変化を試算しました。その結果、年間平均で最大0.25℃程度の気温低下が生じると試算されました。さらに気象場の計算結果を領域化学輸送モデルの入力とし、BEV導入によるヒートアイランド緩和効果がO3とPM2.5濃度に与える影響を試算しました。ヒートアイランドの緩和に付随する境界層高度の低下がNOタイトレーションを促進することと、気温低下によりHOXラジカル機構の化学反応速度が減少することで、O3濃度の減少が示唆されました。一方で気温低下による粒子の凝縮成長の促進や、植物起源揮発性有機化合物排出量の変化によるOHラジカルの地域的な増加により、PM2.5濃度の増加が示唆されました。本結果は地球惑星科学に関する国際学会AGU Annual Meeting 2024で発表した他、国際学術誌Atmospheric Chemistry and Physicsに受理されています。

     

    Hiroo Hata, Norifumi Mizushima, Tomohiko Ihara. Impact of introducing electric vehicles on ground-level O3 and PM2.5 in the Greater Tokyo Area: Yearly trends and the importance of changes in the Urban Heat Island effect. Atmospheric Chemistry and Physics (Accepted).

     

    図 内燃機関自動車をBEVに置き換えた場合の大気化学的影響
    (排ガスの削減、バッテリー充電に伴う発電所からの大気汚染物質排出量の増加、人工排熱量の減少)

     

    【成果の意義・今後の展開】
     気候変動や大気汚染問題は世界的な課題であり、BEVの市場導入を含む対策検討と実用化が行政機関を中心に推進されています。BEV導入に伴う大気化学影響に関連する先行研究では主に、化学物質の排出削減と大気汚染の「化学」的な変化が主題でした。本研究では、化学物質の削減に付随して都市気候の「物理」変化が生じること、その変化が大気化学反応に極めて重要であることを初めて定量的に明らかにしました。国内外の産業活動推進に資する施策提言への貢献が期待されます。

     

    ※ 本研究は2023・2024年度環境対策推進財団の助成を受けて実施されました。

    2025年01月31日