東京の都市廃棄物における窒素フローの動態解析と窒素資源再生への示唆
林 彬勒(環境暴露モデリンググループ)
【背景・経緯】
人口集中と産業発達の著しい都市部における窒素物質の循環(消費と再生)は、循環型社会(サーキュラーエコノミー)を構築するための鍵を握っています。しかし、従来の窒素物質循環研究は農業や食料分野のものがほとんどであり、都市部を対象とした研究は海外のわずかな事例にとどまっています。本研究では、世界のメガシティーである東京を対象に、東京の都市活動を支える個々の窒素フローを定量化することにより、都市環境の窒素物質循環の特徴解明とその窒素フットプリント算定をめざしています。本稿では、2030年までに窒素廃棄物を半減することを掲げたUNEP(国連環境計画)の「コロンボ宣言」に応えるために、東京の都市廃棄物中の窒素フローの大きさとその経年変化の解析結果を報告します。
【成果】
東京都の都市代謝システムの静脈系である廃棄物の窒素フローを定量的に解析し、得られた成果を論文に公表しました(Zhang et al., 2024)。東京都産業廃棄物実態調査報告書より20種類の都市廃棄物(剪定枝、生ごみ、人間のふん尿、浄化槽汚泥、動物の死体、がれき類、ガラス・陶磁器くず、金属くず、動物系固形不要物、動植物性残さ、繊維くず、木くず、紙くず、廃油、燃え殻、動物のふん尿、廃プラスチック類、ゴムくず、建設廃材、汚泥)のデータ、各種廃棄物類別の窒素含有量や含水率などのデータを収集整理して解析を行いました。2000〜2018年における20種類の都市廃棄物の解析結果から、窒素投入量が最も多いトップ5の都市廃棄物は、19年間一貫して下水汚泥、建築廃材、ゴム、廃プラスチック、家畜排泄物であることが判明しました(図)。また、種類別の都市廃棄物から大気へのNH3、N2O、NOx排出量を算出し、下水汚泥、廃棄プラスチック、廃棄ゴムと建設廃材からの大気排出量が最も大きいことを示しました。これらの定量的な解析結果によって、都市環境における廃棄物窒素フローの全貌を解明したと言えます。
図 東京都20種類の都市廃棄物中の窒素フロー(窒素投入量)およびその経年変化
【成果の意義・今後の展開】
本研究は世界のメガシティーである東京都の都市廃棄物の窒素フローを解析した最初の研究事例であり、都市環境の静脈系窒素物質循環の特徴を明らかにしたことに意義があります。特に、都市廃棄物からの窒素資源循環再利用の優先順位、環境汚染防止のための窒素資源管理対策など、循環型社会(サーキュラーエコノミー)の構築において有益な示唆を提供しました。これらの解析結果は、間接的に2030年までに窒素廃棄物を半減するというUNEP 目標の達成に寄与するものです。
* Yue Zhang, Bin-Le Lin, Kiyotaka Tsunemi, Kiyotaka Tahara, Tomohiko Ihara (2024) Nitrogen flows with its yearly change and magnitude in urban waste in Tokyo: Implications for nitrogen management, Bioresource Technology Reports 25 (2024) 101689. DOI: https://doi.org/10.1016/j.biteb.2023.101689.
2025年01月31日