セルロースナノファイバーの細胞毒性と生体適合性の評価
藤田克英(リスク評価戦略グループ)
【背景・経緯】
セルロースナノファイバー(CNF)は、バイオマス由来の軽量かつ高強度な素材であり、石油由来の素材に代わる有望な材料として産業での利用が期待されています。CNFは、素材、食品、環境分野等での応用が広がっており、特にエコロジカルな代替素材として注目を集めています。一方、CNFは原料供給源や製造工程が多様であり、物理化学的特性やCNF懸濁液に含まれる細菌やエンドトキシン等の生物学的特性は様々であることから、これらの因子と細胞影響とのメカニズムは未だ十分に理解されていません。また繊維状のナノ材料であることから、吸入影響評価のための知見が望まれています。本研究では、CNF製品の安全性評価の一環として、肺胞マクロファージを用いたCNFの細胞毒性試験を行い、CNF暴露の潜在的影響について評価しました。
【成果】
本研究では、6種類の異なるCNFを肺胞マクロファージに暴露し、その影響を評価しました(下図)。すべてのCNF暴露群で顕著な活性酸素種の生成は確認されませんでしたが、一部のCNFでは細胞増殖能力の増加や炎症性サイトカインの産生、炎症関連遺伝子の誘導が観察されました。一方、これらの影響が見られないCNFもありました。また、すべてのCNF暴露群で細胞内への取り込みが確認されました。CNF懸濁液中の細菌やエンドトキシンとの相関は認められませんでした。これらの結果から、CNFは顕著な細胞毒性を示さないことが分かり、一部のCNFは生体適合性を示す可能性があると推察します。また、CNFの生体影響には原料供給源、製造工程、物理化学的性質が大きく関与していることが確認され、それぞれのCNFの安全性を個別に評価する必要があると考えます。本研究成果は、国際学術誌であるCellulose(Springer Nature)に掲載されました(Fujita et al., 2024)。
Fujita K, Obara S, Maru J, Endoh S, Kawai Y, Moriyama A, and Horie M. Assessing cytotoxicity and biocompatibility of cellulose nanofibrils on alveolar macrophages. Cellulose. 1-20 (2024). https://doi.org/10.1007/s10570-024-06238-4
図 肺胞マクロファージを用いたCNFの細胞毒性試験
【成果の意義・今後の展開】
本研究は、CNFの特性が原料や製造プロセスにより異なることを考慮し、物理化学的および生物学的特性を踏まえて、各タイプを個別に評価する重要性を示し、安全性評価に有益な手法を提案しました。今後は、細胞反応のメカニズムを解明し、安全性評価を精緻化することが求められます。なお、本研究結果はCNFの安全性を保証するものではありません。本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)より委託された研究成果です(JPNP20009)。
2025年01月31日