• ホーム
  • 研究紹介
  • 水資源の持続可能性により制限される金属などの生産許容量推定(プラネタリー・バウンダリー)
  • 水資源の持続可能性により制限される金属などの生産許容量推定(プラネタリー・バウンダリー)

    本下晶晴(持続可能システム評価研究グループ)

    • Kamrul Islam(持続可能システム評価研究グループ)
    • 前野啓太郎(持続可能システム評価研究グループ)
    • 横井崚佑(持続可能システム評価研究グループ)
    • 加河茂美(九州大学)
    • 村上進亮(東京大学)
    • Damien Giurco(シドニー工科大学)

    【背景・経緯】
     脱炭素社会の実現に向けて再エネや蓄エネといった技術の普及に欠かせない金属などの地殻資源は、地殻中の埋蔵量がその利用可能性を左右すると考えられてきました。一方、金属などの資源は採掘、選鉱や精錬などのさまざまな生産プロセスに多くのエネルギーや水資源を必要とします。水資源の利用可能量は、地域によって異なりますが、世界全体の全需要量の24%がすでに利用可能量を超過しており、水資源の持続可能な利用可能量(プラネタリー・バウンダリー)の範囲内で、金属などの資源の生産を継続、あるいは今後の需要の増加に対応して増産できるのかという懸念があります。ところが、水資源の利用可能量によって資源生産がどれだけ制限されるのかは、これまで科学的に明らかにされていません。
     

    【成果】
     水資源の持続的な利用可能量という制限の下で、金属などの地殻資源がどれだけ生産できるのかという生産許容量を、世界の生産量の7-8割にあたる約3,300の鉱山を対象に推定しました。結果として、今回分析対象とした主要な地殻資源32種のうち25種の地殻資源の生産に伴う水消費が水資源の持続可能な利用可能量を超過しており、銅では現在の生産量の37%が水資源の利用可能量を超えた水消費によって生産されています(下図参照)。資源により生産許容量の超過割合が異なるのは、資源生産のための水消費量の多少だけでなく、生産地域によって水資源の持続的な利用可能量が異なることによるものです。また、気候変動目標の議論にも用いられている共通社会経済経路(Shared Socioeconomic Pathways: SSP)という将来の社会・経済変化に関するシナリオに基づいて金属などの地殻資源の将来需要を予測した結果、持続可能なシナリオであるSSP1のケースで2010年時点と比べて2041年時点では最大で203%の水消費が必要となることが明らかになりました(https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250314/pr20250314.html)。
     

    図 世界の地殻資源生産に伴う水消費と水資源の利用可能量から見た生産許容量の超過

     

    ※ 本成果は米国科学学術雑誌Scienceに掲載されました。

    Kamrul Islam, Keitaro Maeno, Ryosuke Yokoi, Damien Giurco, Shigemi Kagawa, Shinsuke Murakami, Masaharu Motoshita, Geological resource production constrained by regional water availability. Science, 387, 1214-1218, DOI: 10.1126/science.adk5318

     

    【成果の意義・今後の展開】
     再エネ・蓄エネ技術など今後普及が加速すると考えられている技術に必要な金属などの地殻資源について、水消費を抑制した資源生産技術の開発、資源利用効率向上の目標やリサイクル目標の設定、代替資源の選択や資源の調達先の鉱山や国の変更の検討などが必要なことが明らかとなりました。こうした分析は再エネ・蓄エネ技術などの開発とその普及を支援し、これらの政策立案に役立ちます。今後は気候変動や土地利用といった環境問題へと対象を広げて分析し、地殻資源の生産許容量のより詳細な推定へと進めます。

     

    ※本研究開発は、日本学術振興会の科学研究費助成事業18KK0303、21H04944、23K28302、24K20966による支援を受けた成果の一部を利用して実施されています。

    2025年03月25日